製造現場から始まって、今やあらゆる業務シーンで使われるようになった言葉に「見える化」がある。あなたが所属する部門でも「システム開発の進捗状況を見える化しておこう」「業務プロセスを効率化するために現状の処理時間を見える化しよう」などと、何らかの形で見える化を採り入れていることだろう。

 もっとも、見える化を採用しているだけでは十分ではない。現場の実態を把握し、何らかの改善につなげてこそ、初めて効果を発揮したことになる。しかし実際には、KPI(重要業績評価指標)などを設定して見える化したにもかかわらず、期待していたような成果を上げられないままという現場もあるようだ。

 このようなケースでは、見える化するために設定した指標が本来の目的とずれていたり、実態が見えてもどうすれば改善できるのかが分かりにくい指標になっていたりする恐れがある。あなたの現場でも思い当たる節があるようなら、一度、見える化のための「基準」が適切かどうかを疑ってみるべきだ。

 実際に見える化の基準を変更し、改善活動を活性化させることに成功した企業は少なからずある。例えば、半導体切断装置の国内最大手、ディスコがその1社だ。同社は生産部門から管理部門まで、あらゆる現場が改善活動に励む「PIM(パフォーマンス・イノベーション・マネジメント)活動」を2004年から展開している。同活動ではプロジェクトごとに指標を設定して実態を見える化し、その指標の数値を改善する施策に取り組んでいる。

 実はこのPIM活動も当初は課題を抱えていた。「現場の改善疲れが目立った」と、同社の関家一馬代表取締役社長兼技術開発本部長は当時の状況を打ち明ける。「情報システムの運用コストを○%削減する」などと設定した数値目標を達成するため、プロジェクト期間中は現場がハッスルする。ところが終わった途端に気が抜けてしまっていたという。PIM活動を通じ、自発的に改善に取り組む強い現場を作ろうとしていた関家社長にとっては本意ではなかった。

 原因を分析した関家社長が注目したのが、現場の各部門が設定する指標だった。運用コスト○%削減のように、結果を求める指標によって現場を頑張らせてしまうと改善活動疲れを起こしやすいことに気づいた。こうした結果重視の指標の代わりに、一人ひとりに気づきをもたらしやすくする指標を設ければよいと関家社長は考え、それを現場に促してきた。

独自ソフトでキーボードの入力回数を計測

 気づきをもたらす指標の一例に、同社が「キータッチ万歩計」と呼んでいるものがある。自社開発したソフトウエアをパソコンに導入し、1日に何回キーボードをタイプしたかを自動的に計測、記録する仕組みである。

 この指標があることによって、キーボードでの入力作業を始めようとする際に、「なぜ今、キーボードを入力しようとしているのか」などと疑問が生じてくる。そこから業務を見直す余地が開ける。例えば極力入力をせずに文書を仕上げる方法を考えたり、そもそも文書を作成する必要があるのかを考えたりといった具合である。

 こうした指標を関家社長が奨励した結果、従来何気なくしていたことに気づきをもたらす指標が、各部門に浸透してきた。例えば経理部門は2010年7~12月にかけて、帳票の重さを指標に設定。出力する用紙サイズを小さくするなどの工夫が次々と生まれ、活動開始以前の半分以下に減らす成果を上げた。

 これらの活動を重ねることによって、昔からの業務手順が本当に正しいのかどうかを疑う姿勢が、従業員一人ひとりに身についてきたという。見える化の基準である指標を変えたことで、関家社長が目指した強い現場づくりが実ってきたわけだ。

 1月29日に発売した『日経情報ストラテジー』3月号では、ディスコを筆頭に、見える化の基準を見直して成果を上げた事例を10社以上取り上げている。テキストマイニングツールを効果的に応用した住友生命保険や住友信託銀行など、IT(情報技術)を絡めた事例もそろっている。ご覧いただければ幸いである。