「オープンなクラウド」か「プロプライエタリーなクラウド」か。ユーザー企業は今、その選択に迫られている。ITベンダーの顧客囲み込み戦略を信頼して協業の道に進むのか、ユーザー自らの力で複数ITベンダーのサービスを選択し、組み合わせて利用する道を進むのか、選ばなければならない。どちらが最善な策かはユーザーの置かれた立場とIT部門の能力で異なるが、選択を誤れば無駄な投資になりかねない。

 大手ITベンダーは当初、クラウドサービスに慎重な姿勢を見せていた。自社製ハードやソフトの販売に大きな影響を及ぼす恐れがあるからだ。しかし、ユーザーはコスト削減の有効手段として「IT資源の所有から利用へ」という変化に期待をかけた。

クラウドサービスは「3カ月ごとに売り上げ倍増」

 そこでITベンダーは2010年初めにユーザー企業にIT資源を所有させる新種のクラウドに力を入れた。プライベートクラウドだ。米国立標準技術研究所の定義に当てはまらないクラウドだが、仮想化などによるサーバー統合はコスト削減に有効なので導入ユーザーが増えていった。

 富士通の阿部孝明常務理事は2010年11月のクラウドサービスの発表会で、「クラウドビジネスの商談が2010年上期の月400件から11月には500件を超えた」と好調ぶりを強調した。上期に全体の2割を占めたプライベートクラウド商談は前年同期の倍以上に増加したという。日本IBMの橋本孝之社長も2010年11月のクラウドサービスの発表会で、「3カ月ごとに、売り上げが倍増している。クラウドは掛け声からリアルビジネスになってきた」と語り、本腰を入れる姿勢をみせた。

 両社はクラウド事業の強化に向けてサービスの品ぞろえを拡充してきた。富士通は2010年9月、日本IBMは同年11月にそれぞれパブリッククラウドサービスを市場に投入した。低料金を武器に利用者を増やす米アマゾン・ドット・コムや米グーグルへの対応策ともみられている。使用料を低く設定した日本IBMは、「戦略的な価格をオファリングしたわけではない。テクノロジーの進化とこれまでのアセットの活用による」(クラウド事業担当の吉崎敏文執行役員)と否定するが、「1時間当たり10円から」はAmazon EC2などを意識したものに思える。

 一方、アマゾンなどに比べて1.3倍から1.5倍の料金にした富士通は、基幹システムに使えるようサービスレベルを99.99%にした。多重化などによる信頼性で差異化を図る考えだ。ちなみに日本IBMなどのパブリッククラウドは99.5%レベルだという。

クラウド仕様の標準化を進めよ

 だが、各社独自仕様のクラウドが乱立することを懸念するユーザーの声が出てきた。「顧客を囲い込みたい」とITベンダーが考えるのは当然なので、ユーザーがそれでもクラウド活用のメリットを享受したいのなら、ITベンダーに様々な注文を突き付けることが必要だ。

 1つは標準化、共通化だろう。黙っていたら標準化は進まない。期待したいのは「ジャパン・クラウド・コンソーシアム」だ。日本経団連と経済産業省、総務省が2010年12月にクラウドコンピューティング技術を普及させる目的で設置した産学官協議会で、富士通やNEC、日立製作所、日本IBMなど大手ITベンダーやユーザー企業100社以上が加盟する。エネルギーや交通、農業、医療、教育などの社会システムにクラウド活用を検討し、2011年以降の政府の政策に反映させるという。

 心配なのは、こうしたIT活用に関する協議会や政府施策で大きな成果を出した例が少ないこと。電子政府や電子自治体はその最たる例で、議論だけでなかなか前に進まない。「実証実験したら終わり」というケースも少なくない。IT活用の目標や成果を明確に決めないので、誰も結果に責任をとらないこともある。既得権益者による妨げもあるだろう。

 そこを突破するには「日本企業の国際競争力を強くする」という志、熱意を持つ人材を責任者に抜擢し、標準仕様作りを進めなければいけない。そして、既得権益者を排除し、IT先端技術を駆使したビジネスモデルを創り出し、世界で戦える力を蓄える必要もある。今、そのリーダーの登場が待たれている。