何かが終えんを迎えるとき、人々はこれほどまでに慌てふためくものなのか――。2010年11月末、筆者は池袋の家電量販店のテレビ売り場でぼうぜんと立ち尽くしていた。

 もちろん、例の「エコポイント」が満額もらえる最終日と知り、慌てふためいて駆け込みで買おうとしていたのだ。家電量販店に到着してみると、そこにはとてつもない行列と「数時間待ち」のアナウンスがあった。行列に並ぶ根性がない筆者は、「別に買えなくても死ぬわけじゃないし」と捨て台詞を残してその場を後にした。

 2011年7月24日に予定されている地上デジタルテレビ放送への完全移行は、日本国民にとって今年最大のイベントの一つといえる。筆者と同じく、まだアナログテレビを見ている人は、毎日イヤというほど画面端で告知を見せられているため、頭に焼き付いていることだろう。原稿の締め切りをいつもギリギリまで引き付けてしまう筆者でさえ、「やっぱりそろそろデジタルテレビを買わないといけないのではないか」と心配になり始めているほどだ。

 だが、ちょっと待ってほしい。見方によっては、いや少なくともこの記事を読んでいる多くのインターネットユーザーにとっては、地デジ完全移行よりもずっと重要と思われる世界規模の「終わり」が2011年にやってくる。それは「IPv4アドレスの在庫の枯渇」である。普段あまりテレビを見ない筆者にとっては、地デジ完全移行よりもこちらの方がはるかに関心のある問題となっている。しかし、世間一般では多くの人がこのことをまだ知らないか忘れている(ように見える)。これは問題だ。

最初のXデーは2011年2月中旬にやってくる

 IPv4とは、現在のインターネットで使われている基盤プロトコルである。インターネットに直接つながる端末は、必ずこのIPv4のアドレスを使って通信している。IPv4アドレスのサイズは32ビット(2の32乗)なので、ざっと42億個という数になる。一見、膨大な数のように見えるが、現在の地球の人口が69億人とも言われていることを考えれば、早晩足りなくなることは小学生でも分かる。実際、新規に割り当て可能な未使用のIPv4アドレスの在庫はどんどん減っており、2011年中に本当に枯渇しようとしている。

 具体的にそれはいつか。最新の予測はインテックシステム研究所が提供している「IPv4枯渇時計」で確認できる。本記事を書いている2011年1月17日時点では、Xデーは何と2011年2月11日だという。あと3週間ほどしかない。

 この日を境として、まずIPアドレスを管理している大もとの組織であるIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の在庫がなくなる。その後しばらくして、IANAの下部組織である地域インターネットレジストリ(Regional Internet Registry、RIR)の在庫も尽きる。IPv4枯渇時計の基となっている、ジェフ・ヒューストン氏の「IPv4 Address Report」を見ると、図38(Figure 38)にRIRの枯渇時期が示されている。このままいけば、2011年7月前後にIPv4アドレスの在庫が本当に空になってしまう。