地球に迫る巨大いん石がくしゃみで消える――。そんなテレビCMをソフトバンクモバイルが昨年後半から年始にかけて放送してきた。通信業界のトピックに興味がある人なら、このいん石を避けるために提案しているA案とB案が、NTT東西の光ファイバー回線部門を分社化するかしないかの選択肢を指していることは分かるだろう(関連記事1)。

 孫正義社長が2010年に、NTTに対して「アクセス回線会社の分社化」を迫り、記者会見やストリーム配信、ツイッターなど様々な手段で主張を繰り広げた。だが、そのような事情を知らない人にとっては、CMの続きを特設Webサイトで確認しない限り何が言いたいのか分からない。人気抜群の白犬をフックにして幅広い層に主張を届けたいという熱意は伝わるが、携帯電話会社のコマーシャルで、他社の光回線のあり方について投票を求める手法は、少々違和感があった。

 CMのいん石は、2011年が明けるとともにどこかに消えてしまったことになっている。どうやら「光の道、A案かB案か」というキャンペーンは1月中には終了するらしい。一連のストーリーをどこに落とし込むのかは分からないが、そもそもCMから誘導する目的であった総務省のICTタスクフォースの議論は終わっている。結果、「分社化は見送り、NTT東西社内でアクセス回線管理部門と営業部門との機能的な分離を強化する」(関連記事2)という方針が示され、具体策の検討が今後始まる見通しだ。これ以上、ソフトバンク1社で光アクセス回線会社の設立を前提とした持論を主張し続けるのは無理がある。

1月のFTTH接続料申請は論争の第一ラウンド

 だが、構想が実現しなかったからといって、ただで引き下がるソフトバンクではない。NTT東西のFTTHサービスについては、2010年末にかけて値下げの観測が一部で報道された。これを見て早速ソフトバンクは総務大臣に、他社に回線を貸し出す際の料金水準も、1ユーザーあたり1400円台前後にするべきだ、と改めて1月7日に申し入れ、手を緩めない姿勢を見せた。

 ICTタスクフォースが出した方針は、これから整備していくべき政策の方向性を示しただけに過ぎない。具体的な法律や省令の改正につなげていく作業はこれから始まる。光の道という言葉は次第に使われなくなるかもしれないが、2011年は、各社の事業に直接影響が及ぶという点で、これまで以上に熱い論争が繰り広げられる可能性が高い。

 火種は大きく三つある。まず第一ラウンドは、1月中にも始まる見込みだ。NTT東西が「光ファイバーの接続料の改定」を総務省に認可申請する予定だからだ。1月7日のソフトバンクの申し入れは、その申請時期を見据えた先制ジャブといったところか。

 NTT東西が近く申請する内容は、既に定められている算定方式に沿って、光回線の需要予測と設備コストをベースにはじき出した数字となるはずだ。具体的には、最大8ユーザーに分岐させられる1芯回線単位という現行の貸し出し方式のままで、料金水準を現在の4000円台を割る水準まで下げられるかどうかがポイントになるだろう。

 これはソフトバンクの要望とは大きな隔たりがある。ソフトバンクは、8ユーザー分を分割して、1分岐回線単位で貸し出す方式の採用を求めている。料金については、平均して3分岐することを前提に、1分岐あたり1400円台にせよと主張している。

 ただ、第一ラウンドで深く議論を詰められるかどうかは不透明だ。改定した料金を2011年度から適用する都合上、検討できる期間は3月末までの実質2カ月程度と短いからだ。貸し出し方式そのものを大きく変更すれば、NTT東西の収支構造や料金算定の基準に大きな影響を及ぼす。このため1分岐単位の貸し出しは見送りか継続審議となる可能性が高いだろうと筆者は見ている。

NGNの電話網化が1分岐貸しの代替案に浮上

 次に焦点となるのは、1分岐単位の貸し出しをNTT東西に認めさせるのが困難な場合の代替案の議論だ。

 なぜソフトバンクが現行の1回線につき8分岐単位での貸し出し方式が不満なのかというと、借りた1回線上に複数のユーザーを獲得しないと相乗りによるコスト低減効果がでないからだ。1回線でカバーできる地域は一定の面積に限られる。このため、NTT東西でも8分岐できる回線上に3~4ユーザー獲得するのがやっとのところだ。後から参入するソフトバンクにとって、8分岐回線の共用率を高めていくのは高いハードルなのだ。