社会保障・税に関わる番号制度と、国民ID制度の導入に向けた政府の議論が、ひとつの節目を迎えている。

 社会保障・税に関わる番号制度は、政府・与党の社会保障改革検討本部(本部長:菅直人首相)が2010年12月に中間とりまとめを行い、その内容を閣議決定したところ。これを基に2011年1月中をめどに基本方針を策定する。

 一方、行政機関などをまたがる情報連携を実現する仕組みとして、社会保障・税に関わる番号制度の基盤ともなる国民ID制度については、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が、電子行政に関するタスクフォースの場で議論を重ねている。同タスクフォースには、社会保障改革検討本部の事務局も参加し、連携して制度設計を進めている。同タスクフォースも年度内に中間整理を行う見通しである。

 制度の骨格案が整うことで、番号制度・国民ID制度の導入に向けた取り組みは、次の新しいフェーズに入る。国民を巻き込んだ議論の展開である。

 社会保障改革の推進に関する12月の閣議決定では、番号制度について「幅広く国民運動を展開し、国民にとって利便性の高い社会が実現できるように、国民の理解を得ながら推進することが重要」とした。「国民的な議論を経て」、2011年3~4月に法案の骨子となる「要綱」を、6月に法案となる「社会保障・税番号大綱(仮)」を策定し、秋以降のできるだけ早い時期に国会へ法案を提出するスケジュールを組んだ。

「なんとしても番号制度を」と叫び続けられるか

 ただ、これまでに番号制度に対する国民の関心が十分に高まってきているとは言い難い。

 確かに株式市場では、社会保障改革推進本部が推進方針を決定した12月10日には、住民基本台帳カードなどの公共分野に強いことからの連想なのか、NTTデータの売買高が前日比4倍弱まで急伸し、株価も直近3カ月の高値をつけた。また、電子行政に関するタスクフォースの会合には、毎回傍聴人が50人規模で詰めかけている。とはいえ、その顔ぶれにはITベンダーやシステムコンサルティング会社の関係者が目につく。現状では、番号制度に高い関心を寄せているのは、投資や事業の対象と考えている人たちが多く、利用者視点での関心の盛り上がりは感じられない。

 制度導入に向けた次なるステップとなる国民の間での議論の喚起は、やはり政治の力に負うところが大きい。国全体の基盤づくりではあるが、例えば規制の特例措置を定めた特区制度などを活用して、一部の地域やサービスで先行して試験導入し、国民の関心を呼び起こす手法も一案だろう。

 2010年6月にIT戦略本部が公表した「新たな情報通信技術戦略 工程表(ロードマップ)」を見ても明らかなように、2013年度の国民ID制度の導入、2014年度の対応サービスの提供開始までには、複数の省庁や地方自治体にまたがった要件の整理や制度の設計、プライバシーや個人情報の保護方策、数千億円規模のシステム投資など、数多くのハードルが待ち受ける。国民の活発な議論に基づく理解と支持がなければ、今後5年から10年に及ぶであろう長丁場の制度整備を政府がけん引し続けるのは難しいはずだ。

 是非の議論はあったが郵政民営化をひたすら説く当時の小泉首相の姿に、多くの国民は関心を持ち、メディアもこぞって取り上げた。社会保障改革に政治生命をかけると明言した菅首相が、「国民の安心を実現する社会保障の改革を断行したい。そのためにはなんとしても番号制度の導入が欠かせない」と連呼し続けることが、制度導入に向けた次のフェーズに不可欠の条件と言えるだろう。

 すでに啓発活動を展開し始めている経団連など民間とも連携しながら、政治が“強固な意思”を示し続けられるかどうか。社会保障改革の基盤となる番号制度・国民ID制度は、国民的議論の喚起という、実現に向けた最初の大きな山場にさしかかっている。