知的活動には「知的生産」と「知的消費」の2種類がある、と文化人類学者の梅棹忠夫はその著書「知的生産の技術」(岩波新書)で書いている。

 知的生産とは、「頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら――情報――を、ひとにわかるかたちで提出すること」(「知的生産の技術」p.9より)だ。一方の知的消費とは、知的でありながらも情報生産をしていないものとしている。「趣味としての読書というのも、知的消費の一種であって、そのかぎりではマージャンや将棋とおなじ性質のものである」(同p.10より)とする。つまり一生懸命に難しい本を読んだところで、そこから得られた知見を人や社会に提示しなければ知的生産にはならない。

 当たり前だが、アウトプットすることでビジネスは成り立つ。内側にためこんでいるだけでは、誰もお金を払ってくれない。アウトプット(成果)に対してビジネスが成り立つのが今の世の中である。もちろん、成果がすべてだとは言わない。ここでは、あらかじめアウトプットを想定することで知的生産はしやすくなる、ということを述べたい。

 「知的生産の技術」という本は、「京大型カード」を使って情報を整理し、組み替え、新しい知見に結び付けるノウハウを紹介した点が画期的だった。京大型カードとはB6判の紙のことで、思いついたことを書きとめるためのカードだ。1枚のカードには、自分が思いついた、あるいは発見した事柄を一つだけ書く。このカードがたまっていくと、似た傾向の事柄や、不足している考察が見えてくる。そこから自分オリジナルの考えなどをまとめていくのである。紙を綴じたノートでは情報の組み換え作業ができないので、こういった用途には向かないと梅棹は書いている。

アウトプットすることが重要

 高校生の頃に読んだ「知的生産の技術」だが、ふとこの京大型カードのことを思い出したのは、ちょうど「ビジネスEVERNOTE」という本の編集を手がけていたからだ。クラウド・メモ・サービスであるEvernoteは、Webページやデジカメ写真、Twitterのつぶやきやメールの保存などに使えると話題のクラウドサービスである。クラウド上にデータを保存し、パソコンだけでなくiPhoneやAndroidといったスマートフォンからもデータを閲覧できる。保存したデータが大量になっても、検索すればたちどころに取り出せる。このEvernoteに、京大型カードに通じるものを感じた。

 「ビジネスEVERNOTE」は、実際に仕事でEvernoteを活用しているビジネスパーソンに具体的な活用方法を開陳してもらった記事がウリだ。Evernoteを手帳やスクラップブックのように使う例を多数紹介している。しかし、そういった個人的なモノは、ただ見せてもらうだけでは、どのように使っているのか、はた目にはなかなか理解できないものである。そこで、開陳してもらいながら、その活用方法にたどり着いた「哲学」も話してもらっている。