『クラウドものづくり』は、製造業を支える方々に向けた新しいメディアである。発刊の意図は、ピーター・ドラッカーが日本の製造業に抱いていた「ある懸念」への反証を探ることだ。その懸念とは何か。そもそも「クラウド」と「ものづくり」にいかなる関係があるのか。クラウドものづくり編集会議の模様を公開する。

木崎(健太郎=日経ものづくり編集委員、元日経ものづくり編集長) 日経ものづくりと日経コンピュータ、日経情報ストラテジーの3誌が協力して、『クラウドものづくり』という新しいメディアを出すことになりました。その第一弾に掲載する特集記事の内容をここで議論したいと思います。

谷島(宣之=コンピュータ・ネットワーク局編集委員、前日経コンピュータ編集長) その前に質問。「クラウドものづくり」という名前を聞いてびっくりした。なんとかしたほうがいいと思うのだが、“鶴の一声”で決まってしまったとか。そもそもどういう意味なのか。

木崎 日経コンピュータがこのところ追っているクラウドコンピューティングと、日経ものづくりがずっと追っている、ものづくり革新の話を合体させ、「製造とIT」というテーマで情報をもっと発信しようということです。

目次(康男=日経コンピュータ記者) 谷島は昨年、日経コンピュータの編集長をしていたのに、クラウドという言葉が好きではないのです。

谷島 それは少し違う。ITそのもの、あるいはITの利活用において新しい動きがあるなら、「クラウド」という新しい言葉を使ってもよいが、昔からある話にクラウドというラベルを貼るのはやめてほしい、と日経コンピュータ編集部の記者諸兄にお願いしただけ。

 とはいえ、クラウドの定義を議論していると時間がかかるし、不毛なので棚上げにして、「製造とIT」という分野で製造業の方々に何を伝えればよいのか、その点を話し合ったほうがよいのでは。高野さんが本プロジェクトの発案者と聞いたが。

ものづくりと情報システムの境界情報はたくさんある

高野(敦=日経ものづくり記者) はい、よろしくお願いします。ものづくり現場の取材一筋でやってきまして、日経ものづくりの読者の皆様にもっと多様な情報をお届けしたいと最近思うようになりました。

 日経ものづくりの場合、製造現場の改革の話が中心ですので、IT利用というとCAD/CAM(コンピュータ支援による設計/製造)ですとか、BOM(部品表)、PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)といったテーマが主になります。

 ただ、世の中を見ていますと、クラウド、あ、そう言わないほうがいいのですね、新しいITの動きが色々とあって、そうしたことも、ものづくりの最前線におられる方々に伝えたい、と考えました。世の中の動きは製造現場にもろに影響を与えますので。

谷島 英三文字略語が色々出たけれども、CIMという言葉がある。高野さん、聞いたことがありますか。

高野 いえ。

谷島 若い人は知らないのかもしれないが、20年くらい前に非常に使われた。コンピュータ・インテグレーテッド・マニュファクチャリングの略で、直訳すると「コンピュータによる統合生産」となる。ただし日経コンピュータは「製造業における戦略システム」といったように意訳していた。

 木崎さんなら、CIMの三角形の絵を覚えているのでは。あ、そういえば、20年前、日経コンピュータ編集部で一緒だったね。

木崎 ええ。入社して最初の11カ月は日経コンピュータ編集部におりました。取材の仕方、記事の書き方などをようやく覚えたと思ったら異動となり、やがて日経ものづくりの編集部に至ったわけです。その間、CADやPLMをはじめとしてITにかかわり続けています。

 CIMの三角形は覚えています。開発、製造、販売の三部門で情報を連携させ、製造業の生産性を引き上げようという構想でしたね。CIMという言葉は使われなくなりましたが、その構想は今でも生きています。

高野 開発や設計の情報を製造現場、さらには保守現場でうまく使おう、というのは今でもホットなテーマの一つです。

目次 製造と販売の連携といったら、サプライチェーンマネジメントそのものですね。確かにテーマは生きていますが、CIMという言葉はなぜ消えたのですか。

谷島 3部門を連携できたら素晴らしいのだけれども、なかなか難しかった。ITだけ見ても、各部門で使っているシステムが異なるし、データの持ち方も違う。IT以外を見るともっと大変で、部門間を連携させて効率的なやり方に変えようとしても、現場を変えるのは簡単ではない。三角形の絵は綺麗だが、実現には時間がかかる。そのうちに忘れられた、ということかな。

目次 クラウド嫌いに加え、英三文字略語嫌いだから、ひょっとして「温故知新」とかそういう企画にしたらどうかと考えているのですか。

谷島 いや、話を聞いていて、製造とITというテーマでやるべきことは依然としてあるけれども、考え方は20年前とそれほど変わっていない、と思っただけ。