紙代、印刷代、配送費が不要。誰でも簡単に出版できる。出版後の修正やアップデートも容易。検索から入手まであっという間――。紙の書籍と比べた電子書籍の優位性として、このようなことが語られている。

 Webサイトを運営する立場でこれらの論を聞くと「何を今さら」という印象を受ける。Webの世界では10年以上前から当たり前の話だからだ。では、ここに来て盛り上がりを見せている電子書籍は、Webのメディアサイトと何が違うのだろうか。

Webは「放射状に好きなところに移動できる」が「体系的な整理」は不得手

 電子書籍には様々なタイプがあるが、記事を表示する機能そのものは電子書籍もWebサイトもほとんど変わらない。大きく違うのは、記事の周りの部分である。

 例えばITproであれば、今この記事を表示しているページからは100カ所以上、トップページからだと150カ所以上のページにリンクが張られている。約4分の3はITpro内のページへのリンク(内部リンク)、それ以外が広告を中心とする外部サイトへのリンク(外部リンク)である。

 Webサイトの場合、このように今いる場所を起点に放射状に好きなところに遷移できるつくりを想定している。まさにワールドワイドな“Web”の一部なのだ。

 電子書籍は「放射状に好きなところに移動する」ことは基本的に想定していない。電子書籍の火付け役であるKindleにしてもiPadにしても、今いる場所からは前のページか後ろのページに遷移するのが基本だ。

 ITproが11月25日に発行した電子雑誌「ITpro eMagazine」も同じである。ITpro eMagazineは、HTML5/CSS3/JavaScriptといったWebの技術を駆使しているが、あくまでブラウザ上で読む電子書籍である(推奨ブラウザはGoogle Chrome、Safari、Firefox)。

 ITpro eMagazineのページを適当に開いてみてほしい。ページ遷移は「前ページ」「次ページ」の2カ所と、上部にあるナビゲーションの7カ所。合計9カ所に遷移するのが基本的な作りである。ページによってはほかにもリンクがあるが、それを含めても大半はメディア内でのリンクであり、記事を閲覧中に別サイトに移ることはあまり想定していない。

 電子書籍には様々な作り方があり得るので、もっと自由に遷移できる書籍ももちろんある。それでも一つのページから外部リンクを含め100カ所に遷移できる作りを基本構造とする電子書籍は、あり得ないだろう。

 読みやすさに関して言えば、人によって感じ方はいろいろあるだろうが、電子書籍のほうが読みやすいに違いない。文字の配置やページのめくり方など、読者がコンテンツの内容に集中できるよう従来のWebサイトの制約を外して、自由に再構成しているからだ。

 もう一つの大きな違いは、情報をストックする方法である。Webサイトは時々刻々、更新してゆくメディアである。電子書籍の目次はいつ開いても同じだが、Webサイトのインデックスは時間が経つにつれて変わっていく。ITproのトップページの場合、数時間ごとに内容が入れ替わる。そのため、常に最新の情報を掲示するのに向いている。

 その半面、一つのテーマを体系的に整理したり、ある時点の情報をまとめて読むという機能は弱い。検索機能を使って、あるテーマに沿った内容やある時点での情報を一覧することはもちろん可能だが、それは断片の羅列に過ぎず、個々の記事の意味づけは損なわれてしまう。

 そうした個々の断片を何らかのテーマに沿って整理し、意味のある体系にまとめ上げるのが、Webサイトを運営する立場から見た電子書籍の価値だと考える。そうしたものに価値を感じる人たちが、今年になって数多く出版されている有償の電子書籍を購入するのだろう。

 経済産業省の調査によれば、2009年時点での国内ECサイトの市場規模は、6兆7000億円に達している。「オンラインでモノを購入する」という行為は、ほぼ定着したと言ってよい。「モノ」がいずれ「情報」に拡大し、「オンラインで情報を購入する」という消費行動が消費者に定着するのが不自然なこととは思わない。まとまった情報を体系的に読むメディアとして、電子書籍が優れているのは間違いないからだ。

二つの大波はともに進化

 メディアを通じた情報の流通は、書店やキオスクでお金を払って紙の書籍(新聞や雑誌を含む)を買わなければならなかった時代から、2000年代にWebサイト上を流れる無償の情報を検索して閲覧する時代に移ってきた。その波はブログの登場によって加速され、mixiやTwitter、Facebookといったソーシャルメディアの浸透とともに巨大化している。

 一方で、筆者や編集者によって読みやすく体系的に整理された電子書籍を、お金を払って読む有償化の波が押し寄せている。二つの大きな波は、全く異なるニーズから生まれたものであり、どちらかがもう一方を飲み込むことにはならないだろう。二つの波がぶつかりあいながら、新しい情報の流通形態を生み出していくに違いない。

 さて、ITproが発行した電子書籍「ITpro eMagazine」だが正直なところ、Webサイトが発行する電子書籍がどのように受け止められるのか、予想がつかない。そこで、ぜひ読者の皆さんのご意見・ご感想をお寄せいただければ幸いである。結果については、追ってこの欄で報告していきたい。


 電子書籍「ITpro eMagazine」についてお聞きします。「ITpro eMagazine」をご覧いただいた上で、下記の質問にお答えください

「ITpro eMagazine」の閲覧はこちら
「ITpro eMagazine」の解説はこちら

■ユーザーインタフェースについて
Q1. 「ITpro eMagazine」は読みやすいですか

(1)読みやすい
(2)読みにくい
(3)どちらとも言えない

Q2. その理由は何ですか。また、通常のWebサイト(ITproなど)や紙の雑誌と比較し、「ITpro eMagazine」のユーザーインタフェースについて、どのように感じましたか。ユーザーインタフェースについてのご意見・ご感想を自由にご記入ください

■分量について
Q3. 1冊の電子雑誌として全体の分量はどうですか

(1)多すぎる
(2)適当
(3)少なすぎる

Q4. 1ページ当たりの分量はどうですか

(1)多すぎる
(2)適当
(3)少なすぎる

■電子書籍への期待について
Q5. 今後、ITproの記事を電子書籍の形態で読みたいですか

(1)読みたい
(2)読みたくない

Q6. 「Q5.」で(1)と回答された方にお聞きします。コンテンツはどういうスタイルでリリースしてほしいですか(複数回答)

(1)定期刊行物の電子書籍としてリリースしてほしい
(2)ムックや別冊のような、単発の電子書籍としてリリースしてほしい
(3)その両方のスタイルでリリースしてほしい
(4)その他(

Q7. 「Q5.」で(1)と回答された方にお聞きします。どのプラットフォームで読みたいですか(複数回答)

(1)パソコン上のWebブラウザ
(2)パソコン上のビューワー/アプリケーション
(3)iPad/iPhone上のビューワー/アプリケーション
(4)Android端末上のビューワー/アプリケーション
(5)その他(

■電子書籍全般について
Q8. 過去に電子書籍を読んだことがありますか(複数回答)

(1)携帯電話で読んだことがある
(2)iPad/iPhoneで読んだことがある
(3)パソコンで読んだことがある
(4)それ以外の端末で読んだことがある
(5)読んだことはない

■自由記入
Q9. その他、ご意見・ご感想を自由にご記入ください。

ありがとうございました。