その瞬間、自分の顔から血の引く音が聞こえたような気がした。取材先から届いたメールを社内の同僚に転送しようとして、誤って当人に返信してしまったのだ。しかも、その人に対して失礼に当たる文言を冒頭部分に書き加えて---。

 ミスに気付いたのは、送信ボタンを押した直後。震える手で相手に電話をかけ、謝罪して許してもらったものの、あのときの気まずさは今でも鮮明に覚えている。

65%が「メールを受け取って不快に感じた」

 記者は、弊社サイト「PC Online」で連載中のコラム「美人研究員は見た! ビジネスメール事件簿」の編集を担当している。メールがもたらすさまざまな“事件”を基に、望ましいメールの書き方を解説する企画だ。

 取り上げるネタを著者らと相談するなかで、恥を覚悟で冒頭の失敗談を披露した。すると、「自分も似たような経験がある!」との声が相次いだ。最も活発にメールを使うビジネスパーソンであろうITpro読者にも、身に覚えのある方がいらっしゃるのではないだろうか。

 メールは今や、プライベートのみならずビジネスの現場でも、欠くことのできないコミュニケーションツールである。だがほとんどの企業が、メールに関してきちんと教育をしていない。多くの人が見よう見まねでメールの書き方を覚え、やや不安を覚えつつも自己流の書き方を通している、というのが実情だろう。

 メールに不安など抱いていない、という方も油断は禁物だ。メール教育の専門会社アイ・コミュニケーションがビジネスパーソンを対象に実施した調査によると、「過去1年間にメールを受け取って不快に感じた経験がある」と答えた人は65.6%。ところが「それを相手に指摘したことがあるか」という問いに「よくある」「たまにある」と答えた人の合計は31.5%に過ぎなかった。非常識なメールを送っていることに当人が気付いていない、ということだって十分あり得るわけだ。

あなたの周りにも“ダメ”メール

 では実際に、“ダメ”なメールの例をいくつか紹介しよう。例えば、あなたの周りにこんなメールを送ってくる上司はいないだろうか。

 取引先とのアポイントの調整メールを、そのまま転送した例だ。受け取った部下は、「アポイントの日時を知らせてくれたんだ」と考え、そのままにしていた。忘れたころに「あのアポイント、どうなった?」と上司に聞かれ、アポイント調整の依頼のための転送だったことに初めて気付いたという。上司が転送の意図をきちんとメールに書いていれば、こうした誤解は生じなかったはずだ。

 取引先は、アポイント調整がなかなか進まずに困っていただろう。場合によっては、アポイント自体が流れてしまう可能性もある。大きなビジネスにつながる可能性のあるアポイントだとしたら、機会損失は甚大だ。