ここ1~2年、2000年ごろに10年間の長期一括アウトソーシング契約を結んだ企業が、相次ぎ契約の更新を発表している。これらを目にしているうちに、「アウトソーシング契約を更新した企業は、過去10年をどのように評価しているのだろうか」ということが気になるようになった。そこで、日経コンピュータの2010年11月24日号で特集「アウトソーシング18年目の真実」を執筆した。
特集記事では、アウトソーシング利用企業への取材を基に、コストを期待通り下げることの難しさや、アプリケーション保守を委託することの問題点などについて言及した。一方で、それらの問題を解決するために、先進企業が進めてきた取り組みを紹介した。詳しい内容は、日経コンピュータの記事をお読みいただければと思う。
この特集のサブタイトルに「理想は『システム運用だけ5年』」と付けた。「システム運用だけ」という言葉に込めた意味は二つある。「システム運用以外の、アプリケーション開発・保守の委託には困難が伴う」ということと、「システム運用の委託については多くの企業が満足している」ということだ。このうち前者の委託に伴う困難については特集記事をお読みいただくとして、本記事では後者について書いていきたい。
「インフラ運用」を委託している企業が最も多い
特集記事を執筆するにあたり、日経コンピュータが主催する「システム部長会」の会員に対してインターネットを使ったアンケート調査を実施した。調査期間は10月18日~28日で、42社のシステム部長から回答を得た。
調査では、どのような業務をアウトソーシングしているか、選択式で聞いた。回答者が、「個別案件のシステムインテグレーションの発注」と「アウトソーシングによる業務委託」を混同しないよう、「案件ごとに複数のITベンダーから1社を選定して発注する、といったケースはアウトソーシングに含めない」ということを注釈に書いた。
最も多くの企業が委託している業務は「インフラの運用」で59.5%だった(図)。反対に、最も少ないのは「アプリケーションの企画」で2.4%だった。全体として、上流工程より下流工程のほうが、同工程で比較するとアプリケーションよりインフラのほうが委託している割合が高いという傾向があることが分かった。
42社のうち、「アウトソーシングを利用していない」と回答したのは10社。アウトソーシング利用企業だけをみると、約8割の企業がインフラ運用を委託していることになる。
別の設問で、長期一括アウトソーシングの活用についてどう考えているかを聞いた。回答は「どの企業も活用すべき」、「企業によっては活用したほうがよい」、「なるべく活用しないほうがよい」、「活用すべきでない」の4つから選択してもらう形式にした。
結果は、42社のうち30社が「企業によっては活用すべき」と回答し、「なるべく活用しないほうがよい」の10社と「活用すべきでない」の2社を大きく上回った。「どの企業も活用すべき」と答えた企業はなかったが、アウトソーシングの利用経験がある企業の多くが、「アウトソーシングは状況に応じて活用するべきだ」と考えていることが分かる。委託業務の割合についての回答結果と併せて考えると、状況によって委託したほうがいい業務の筆頭は、「インフラの運用」であるといえる。
数年後の状況変化を見越し5年契約が主流に
取材したユーザー企業の担当者は、ほぼ例外なく「システム運用はアウトソーシングして良かった」と話していた。アプリケーションの開発・保守の委託で苦労した企業であっても、システム運用については一様に満足しているようだった。
具体的には、「運用手順の標準化やドキュメント化は、自分たちだけではあれほどきっちりできない」「担当者が変わることがあっても、業務の引き継ぎが完璧だった」「システムトラブルの回数が、業務委託後にかなり減った」といった声が、複数の担当者から聞かれた。
多くのユーザー企業の担当者は「インフラの運用スキルやハードウエアについての知識は、ITベンダーの担当者のほうが優れている。業務委託するメリットは大きい」とはっきり認める。であれば、「引き続き10年契約を結べばいいのではないか」と思えるが、これがそうなってはいない。契約を更新した企業のほとんどが、5年契約を結んでいる。
この点について、特に印象に残っているのがある担当者の次のような言葉だ。「数年後には、現在使っているメインフレームをオープン化しても問題がないかもしれない。そうなれば、オープン環境に強い別のITベンダーに運用を委託したくなるだろう。あるいは、自社システムからパブリッククラウドへ全面移行する可能性もないとは言えない。こういったことを考えると、10年は明らかに長すぎる」。