9月某日、ネットワーク・コンサルティングをさせていただいているお客様との定例会のために福岡へ行った。コンサル・チームは地元のメンバーが主体なのだが、コンサルのプラン作り、資料のレビュー、報告書の執筆などを手伝っている。福岡のメンバーとの打ち合わせはもっぱら電話会議だが、月に一度、定例会に出席する。

 お客様側の責任者(女性)の正面に座った筆者は、iPhone 4をその方の眼の前に置いた。会議に入る前に雑談するためだ。「Talking Tom」というアプリを立ち上げて、「何かしゃべってください」と言うと、「おしゃべり出来るんですか?」と言われた。すかさず、Tomが特徴のある声でオウム返しに「オシャベリ出来ルンデスカ?」と答える。一同、思わず「わはは」と笑うとTomも「ワハハ」と笑う。ボリュームを大きくしているのでTomの声は10人ほどの出席者全員に聞こえるし、こちらの声もよく拾うのだ。Tomのおかげで一瞬にして和やかな雰囲気になった。

 Talking Tomはアニメの猫がこちらの言ったことをオウム返しに答えたり、指で体にタッチすると面白いリアクションをする、たわいない無料アプリだ。筆者は飲み会の席で教えられ、その場でダウンロードして使い始めた。誰に見せてもニコッと笑う。こんなアプリが山ほどあって、ユーザーからユーザーへと教え合いながら広まって行く。これがiPhoneの強さだ。

 さて、今回はこのコンサルの中でも検討しているiPadにSIPを使ったコミュニケーション機能を持たせる話を書こうと思う。

電話会議端末になったiPad

 iPadにはマイクとスピーカーはついているが電話機能はついていない。電話機能を持たせれば大きな画面に資料を映しながら電話会議が出来て便利だな、と思いついた。IPネットワーク上で電話やビデオ会議を実現する技術としてはSIPが使える。SIPはSession Initiation Protocolの略称で、インターネットの標準化団体、IETF(Internet Engneering Task Force)でRFC3261として2002年に標準化されている。その名の通り、端末間に電話やビデオ会議のセッションを設定したり、そのセッションの属性を規定するためのプロトコルだ。日本では東京ガス・IP電話をきっかけにIP電話ブームが起こった2003年から2004年頃に注目を集めた。

 その基本的な仕組みは至って簡単だ。SIPクライアントをインストールした端末(iPadなど)はSIPサーバーにレジストし、SIPサーバーは各端末の電話番号とIPアドレスの対応を保持する。

 電話を発信する場合、相手の電話番号をダイヤルするとコールリクエストというメッセージに電話番号やセッションで使用したい属性情報が格納され、SIPサーバーに送信される。SIPサーバーは電話番号に対応するIPアドレスを持つ端末にメッセージを転送する。相手端末が着信OKのメッセージをSIPサーバー経由で発信端末に返す。発信端末は受け取ったメッセージで相手端末のIPアドレスが入手出来るので、直接ACKメッセージを相手端末に返す。これでセッションが確立され、両端末の間で音声パケットの送信が始まる。音声パケットはSIPサーバーを介さず、端末間で直接送受するのが普通の使い方だ。

写真1●iPad電話会議用クライアント
写真1●iPad電話会議用クライアント

 このSIPを使ってiPadを電話会議端末にするアイデアを実現した(写真1図1)。

 今回開発したクライアントで工夫しているのは、シングルタスク(同時に一つのアプリしか動かせない)のiPadで電話をしながらドキュメントの表示を可能にしたことだ。クライアントアプリの上でブラウザを立ち上げ、ドキュメントを開けるようにしている。2010年11月22日からはiPadでもマルチタスク対応の「iOS 4.2」がサポートされたが、一足先にアプリでマルチタスク的な利用を実現した。

 SIPサーバーとしては、フリーソフトであるAsteriskにプラスαしたものを使っている。電話会議はAsteriskが持っているmeetme方式を利用する。これは会議室電話番号へ各iPadがダイヤルして集まってくる方式だ。あらかじめメールなどで招集しておく必要がある。誰でも参加できる会議と、暗証番号で参加者を限定する会議があり、最大10端末が会議に参加できる。近い将来、iPadにカメラが付けばテレビ会議に発展させることも可能だ。

 図1にあるように、SIPクライアントをiPhoneにインストールして電話会議だけでなく、内線番号を使った1対1の通話に使うことも出来る。ゲートウエイ機能で既存のPBXを接続すると、レガシーな電話機とiPhone、iPad間の通話もOKだ。もちろん、イントラネットやインターネット上での通話なので電話料金はかからない。

図1●iPadによる電話会議
図1●iPadによる電話会議