「必要である、当然であるとして強く求めること」(広辞苑 第六版)

「ほしい、必要だ、または当然の権利だとして、その実現を相手に求めること」
(新明解国語辞典 第四版)

「1 必要または当然なこととして相手に強く求めること。 2 必要とすること」(goo国語辞書/デジタル大辞泉)

 「要求」という言葉を辞書で引くと、こんなふうに説明されている。しかし、この説明にしたがって、システム開発の“要求”定義を行うと、とんでもないことになる。運用テストに至ったところで「こんな機能は使えない」と大幅な手戻りが発生するか、運良くリリースにこぎ着けても使われないまま放置されたり、使われはしてもビジネスの成果につながらなかったりする可能性が高い。

 そもそも要求とは、もやもやしたとらえがたいものであり、それを正確にシステムに反映する作業は、ベテランのSEでも容易ではない。その容易ではない作業に光が当たり始めたのは、ごく最近のことである。

 2005年、有志によって要求開発アライアンスが設立されたのが、国内のIT業界における具体的な動きの始まりである。この活動には大きな意義があった。ただ、その時期はどちらかと言えば、要求そのものよりも洗い出した要求をどう実装するか、すなわち「どう作るか(How)」にIT業界の目が向いていた。レガシーマイグレーションや大規模Webサイトをはじめとする大型案件が続出し、マネジメントの不備から失敗プロジェクトが続出していたからだ。

 そこで主要ITベンダーや大手ユーザー企業は、売り出し中のPMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)の考え方を取り入れることに注力した。そして、マネジメントの方法論を整備することで、当時の苦境を乗り越えた。もちろん個別に見れば失敗プロジェクトは今でもいくらでもあるだろうが、かつてのようなデスマーチが聞かれることはだいぶ減っている。

システム開発の関心事が「How」から「What」へ

 「How」が一段落したところで、改めて今クローズアップされてきたのが、「何を作るか(What)」である。納期やコストを守って作ったはいいものの、「使いにくい」「使えない」「使われない」システムが問題になってきた。IIBA 日本支部の福嶋義弘代表理事によれば「一般に、開発したシステムの6割の機能が使われていないと言われる。ユーザーの要求をきちんと把握できていなかったためだ」(関連記事)。

 このような中で、BABOK(ビジネスアナリシス知識体系)が登場し、IT業界を中心に脚光を浴びるのは必然の流れといえる。ビジネスを分析することなく、要求を整理し、必要なシステムを定義することなどあり得ないからだ。

 早くからBABOKの活用に取り組んでいるアイ・ティ・フロンティアの阿部智英子氏(システム構築本部 ERPユニット ユニット長)は「SIerとしてこれから生き残っていくにはBABOKが必要だ」と語っている(関連記事)。以前よりもコストにシビアなユーザー企業に受け入れられる提案をできるかどうかは、ユーザーの要求をいかにうまく引き出せるかにかかっているからだ。

 では、ここで引き出すべき“要求”とは何か。BABOKガイドの用語集には「要求(requirement)」の説明として次のように書かれている。

1. 問題を解決するか、または目標を達成するためにステークホルダーが必要とする条件または能力。

2. 契約、標準、仕様、その他正式に課せられた文書を満たすためにソリューションまたはソリューションの構成要素が保持し、適合しなければならない条件または能力。

3. 1.と2.の条件または能力を文書で表現したもの。

 つまり、ビジネス分析における要求とは、「条件または能力」を指すのである。冒頭の辞典で説明されているような「当然の権利」でもなければ「強く求める」ようなものでもない。とは言え、「条件または能力」と言われても、すぐには何のことか分からない。

 PMBOKがもてはやされた2000年代前半、一方で「PMBOKを習得したからといって、プロジェクトマネジメントがうまくいくわけではない」というようなことがよく言われた。それは当たり前で、PMBOKはあくまでもBOK(Body of Knowledge:知識体系)であって、具体的な手法の手引きではないからである。ITベンダーやユーザー企業はPMBOKをそれぞれに解釈し、自分たちの開発方法論に組み込んでいく必要があった。

 BABOKもBOKであるという意味では、それと同じである。BABOKを学んだからと言ってビジネス分析がうまくいくわけではない。その内容を解釈し、方法論としてまとめ上げていく必要がある。

 ITproでは、そのBABOKを方法論としてまとめあげていくためのセミナー「明日から使うBABOK」を企画した。システム開発の現場において、知識を習得するだけでは十分ではない。演習を通じて、すぐに使えるスキルを身に付けるためのプログラムを組んだ。ぜひ参加して、役に立つシステムを作るためのスキルを磨いていただければ幸いである。