回答受付総数は52万9154件。青森県や奈良県の世帯数に匹敵する回答がインターネット経由で寄せられた---。

 総務省統計局は11月2日、「平成22年国勢調査」のインターネット回答方式に関する受付状況とアンケート結果を公表した(発表資料)。国勢調査にインターネット経由での回答方式を採用したのは、1920年の第1回から数えて19回目となる今回が初めて。東京都全域をモデル地域として、希望者が選択できる形で実施した。東京都総世帯数の推計値629万4329世帯に占めるインターネット回答比率は8.4%に達し、実施前に5%程度と見込まれていた比率を大きく上回った。

 同時に実施したアンケートでは、「回答入力の操作は分かりやすかったか」という設問に対し、85.2%が「はい」と回答し、「いいえ」は4.7%にとどまった。「次回もインターネット回答方式を利用したいか」という設問には、なんと99.0%が「利用したい」と答えた。利用者には非常に好評だったと言っていい。

市区部と町村・島しょ部で利用率に約2倍の差

 一方で、課題も浮かび上がった。インターネット回答比率を地域ごとに見ると、区部が8.4%、市部が8.6%だったのに対し、町村部(島しょ部を除く)は4.8%、島しょ部は4.2%だった。市区部とそれ以外の地域では、利用率に約2倍の差がついたことになる。町村部や島しょ部は高齢者世帯の比率が高いことに加えて、町村部などでの普及率が相対的に低いADSL、光ファイバー、CATVなどのブロードバンド回線の利用を条件にしたことも要因になったと推測できる。

 実はインターネット利用率が12.7%と最も高かったのは伊豆諸島南部の青ヶ島村だった。同村は人口174人・世帯数110と国内で最も人口が少ない自治体であり、公務員や建設作業員などの島外出身者の比率が高い。国勢調査は、住民票がある届出地ではなく、居住地で調査するため、島外出身者の回答が色濃く反映された特異な例と言えそうだ。それ以外でインターネット利用率が10%を超えたのは、中央区、品川区、千代田区、日野市で市区部に限られる。インターネット回答方式を普及させていく際には、取り残されかねない町村部などへの配慮が欠かせない。

効率化の目的は達成できるのか

 今回の国勢調査でインターネット回答方式を東京都限定で先行実施した狙いは、調査票提出の利便性確保と回収・集計事務の効率化にある。

 調査員が各戸を訪問する従来方式だと、単身世帯や共働き世帯の比率が高い都市部では不在の確率が上昇しており、調査の効率が低下している。調査に答える側も、「統計法」に基づく提出義務を負うとはいえ、そのために在宅時間を調整するのは煩わしい。インターネット回答方式は、同じく今回導入された郵送提出方式とともに、調査する国にとっても答える国民にとっても効率や利便性を高め、結果として回収率や回答精度を高める効果を期待できる。

 効率の観点では、国勢調査は2009年11月の行政刷新会議による事業仕分けで、「5~10%の予算要求の縮減」という厳しい判定を下されている(評価コメント)。「平成22年国勢調査」の事業費として概算要求された金額は682億4300万円。その85%に当たる578億5000万円は地方公共団体への法定受託事務の経費であり、大半は全国70万人の調査員への手当として支払われる。調査員による回収やデータ入力の手間を省けるインターネット回答方式などのIT活用は、コスト削減のための方策として、推進が強く求められた。

 とはいえ、そのためのシステム基盤の整備には、十分な注意が必要になりそうだ。行政システムは年度終わりなどの特定の時期に事務処理が集中する傾向があるが、国勢調査は1年どころか5年に一度だけ。今回は9月23日から10月11日までの19日間の回答期間中は24時間稼働で、ピークの10月3日の日曜日には6万8524件の回答を受け付けた。

 インターネット回答方式を全国に展開するなら、10倍程度のシステム容量が必要になる可能性がある。集計処理を除くと5年間のうち約20日間だけ稼働する大容量の受付システムを効率的に運用するには、ほかの調査業務とのシステム共用や、システム資源を必要な時に動的に利用できるクラウドコンピューティングの活用などを検討する必要がありそうだ。

 また、今回の調査では、インターネット回答方式に必要な「調査対象者ID」と「確認コード(パスワード)」は、調査票と一緒に調査員が各戸に配った。だが、調査員のコストを削減するには、人手を介さずにセキュリティを保ってIDとパスワードを配布する方法を検討する必要もある。次回国勢調査の前年の2014年度からは「国民ID制度」のサービスが始まる計画であり、同制度では個人認証にICカードを使う方針である。こうした仕組みの流用や連携によってコストを抑える工夫も求められるだろう。

 5年間で20日間だけフル稼働する国勢調査受付のためだけに、システム基盤整備を進めるのは現実には難しい。だからこそ、そのときに利用できる政府共通プラットフォームを活用して効率的に対応できるかどうかは、「霞が関クラウド」などの政府情報システム全体のグランドデザインや処理能力、使い勝手が問われることになる。5年後の国勢調査でインターネット回答方式がどのくらいの範囲で利用可能になり、実際にどのくらいの比率で使われるかは、日本の電子行政システム基盤の進展度合いを測る指標となりそうだ。