「iPadのような“スマートパッド”はビジネスに最適。いずれビジネスパーソンに一人1台スマートパッドの時代が訪れる。国内のパソコンの大半はスマートパッドに置き換わる」--。2010年10月28日に開催したソフトバンクの第2四半期決算にて、同社の孫正義社長はこのようにぶち上げた。

 プレゼンの中で孫社長は、2015年には国内のパソコン販売台数の約半数がスマートパッドになるという同社の予想を紹介。特にネットブック市場を侵食するとの予想を立て、「ネットブックのような端末を使っていると、恥ずかしい、隠して使わなければならない、といった風潮が訪れる」(孫社長)とまで言い放った。孫社長はパソコン黎明期の立役者の一人でもある。「当時パソコンはビジネスパーソンからはおもちゃ扱いにされた。だがその後、みんな使い始めた。同じようなことがスマートパッドでも起こる」と自身の先見の明の確かさを強調した。

 上記の孫社長の発言は、「ソフトバンクの勝利の方程式」という文脈で、同社が今後も勝ち続けるという裏付けに使用されたもの。多分にポジショントークの色が濃いが、昨今のiPadへの企業ユーザーの関心の高さ、続々と登場するソリューションを目にするにつれて、あながち言い過ぎとは言えないと感じている。数百台規模以上の大量導入に踏み切る企業も珍しくなくなり、カフェでiPadを操作するビジネスパーソンも目立ってきた。企業ユーザーとしては、iPadのような“スマートパッド”を新たなツールとして活用を検討すべき時期に来ていると言えるだろう。

 なお“スマートパッド”という表現は孫社長がこの日、初めて大々的に使用した。スマートフォンとの関連性も想起させるよい表現だと思う。当記事でもその表現を使わせてもらおう。

ノートパソコンとの違いは?

 iPadのような“スマートパッド”は、孫社長が言うように本当に企業のパソコンを置き換えるのだろうか。

 それを考える上では、スマートパッドとパソコンの違いをきちんと整理する必要がある。現に企業ユーザーからはiPadのような端末について、「ノートパソコンとの違いが分からない」「ノートパソコンで代替できる」という声がよく寄せられる。

 ノートパソコンと比較したスマートパッドのメリットは、(1)起動の速さ、(2)バッテリーの持ちのよさ、(3)軽さ、(4)タッチパネル式の操作性のよさ、の4点だろう。ノートパソコンが1分近い起動時間がかかるのに対してiPadなどは数秒で起動する。バッテリーは10時間近い持ちを示す。重さは1kg以下で持ち運びしやすい。タッチパネル式で直感的に操作できるといった具合だ。

 このような利点からは、営業の現場においてはノートパソコンよりもスマートパッドのほうが向いている。相手を待たせずにプレゼン資料を見せられるほか、外回りの際に重視するバッテリーの持ちがよいからだ。

 例えばガリバーインターナショナルは、営業現場の端末としてiPadの大量導入を計画、一部試験導入を始めている。大塚製薬もMR(医療情報担当者)向けにiPadの大規模導入を決めた。このように営業シーンにおいては、スマートパッドは十分パソコンを置き換える可能性があるだろう。

 では、営業以外の通常のオフィスのシーンではどうか。

 それを考える上では、ノートパソコンとの違いとして以下の2点、(1)キーボードを標準で備えていない、(2)Windowsと異なる管理体制、を念頭に置く必要がある。大量の文書を入力する業務や複雑な資料を作成するような業務は、やはりパソコンの方が効率的だ。ウィンドウやタスクの切り替えもパソコン並みとはいかない。開発系の業務もパソコンでなければ難しい。パソコンのほうが向く業務シーンは確実に残る。

 逆に言えば上記のようなシーン以外であれば、ある程度スマートパッドでカバーできる範囲は広がっていきそうだ。筆者も個人持ちでiPadを活用しているが、さすがにiPadで長い原稿は書けないものの、メールのチェックや返信、簡単な調べ物であればiPadで十分と感じている。

 Windowsと異なる管理体制を気にする企業ユーザーも多い。実はiPadのような端末はWindowsよりセキュアという指摘がある。iPadの場合、基本的には米アップルの認証の通ったアプリケ-ションしかインストールできず、ウィルス感染の危険性は低い。またWindowsのようなユーザーが操作できるファイルシステムを持たず、ユーザーが端末にデータを残さない運用も可能だ。iPadなどを対象とするサードパーティー製の管理ソリューションも続々と登場してきた。

 このような特性を生かして、シンクライアント端末として利用する企業も現れている。クライアントソフトはAppStoreで無償配信されているケースも多い。シンクライアントシステムを既に導入済みの企業は、追加の開発の必要もなくスマートパッドをシンクライアント端末として利用できる。

 例えば三菱UFJインフォメーションテクノロジーは、既存のシンクライアントシステムを活用し、iPadを社内のペーパレス化を進める端末として試験導入を始めている。

 こう見ていくとスマートパッドは営業現場にとどまらず、より幅広い業務シーンに浸透する可能性があると感じている。

POS端末やプロモーション用にもシーンは広がる

 ここまでは企業内でスマートパッドを活用するシーンを見てきたが、スマートパッドの企業活用はさらなる広がりを見せ始めている。例えば銀座の料亭「安曇亭」は、フーマトレーディングが開発したiPadを使ったオーダーシステムを導入した。iPadという汎用デバイスを利用しているため、通常のPOSシステムと比べて1/3の価格に抑えられたという。

 一般ユーザーのiPad環境にアプリケーションを配信し、エンドユーザーとの接点やプロモーション用途に使うケースも目立つ。例えば通販大手のニッセンはiPad向けのカタログアプリケーション「ニッセンスマートカタログ」を配布。カタログから直接購買できるほか、在庫確認や口コミ情報の閲覧などもできる。ブリヂストンも、PR会社のビルコムと共同で雑誌風のアプリケーション「DRIVEto...byBRIDGESTONE」を配信。こちらは位置情報と連動したドライブガイドにもなっている。

 こうして見ていくと、iPadのようなスマートパッドが生み出した新たな利用シーンの多彩さに驚く。これだけ短期間の間に、企業ユーザーの新たな活用シーンを生み出したデバイスはこれまで無かったのではないか。

 ただ実際に活用する中での苦労や課題も、まだ多数あるだろう。そこで日経コンピュータと日経コミュケーションは11月17日に、iPad先進企業とiPad導入を支援するITベンダーが登壇するセミナー「iPad活用最前線」を共同で企画した。

 上記で紹介したiPadを多彩な用途に活用する先進企業5社、ガリバーインターナショナルや三菱UFJインフォメーションテクノロジー、フーマトレーディング、ニッセン、ブリヂストンとビルコムの担当者に登壇していただき、iPad導入のコツや活用を進める中で感じた課題などを、それぞれ本音で語ってもらう。またiPad導入を支援するITベンダーなどを交えた運用管理や開発のコツについてのパネルセッションも用意した。ぜひご来場していただき、自社の“スマートパッド”活用の取り組みに役立てていただきたい。