「クラウド祭りは終わった」。こう聞いて、読者のみなさんはどう思われるだろうか。

 それほど突飛なことを言おうとしているのではない。トレンド初期のブームの段階、つまり「クラウドとは何か」「特徴は」「利点は」と、クラウドそのものをにぎやかに紹介する時期は過ぎつつある、ということだ。

 すでにクラウドはシステムの「前提」になった。情報システム構築や利用者の業務生産性向上の手段として、定着し活用する段階に入ったと考えている。

 インターネットと同じである。2010年の現在、インターネットがブームになっているとは誰も思わないだろう。といって廃れてもいない。企業はインターネットの存在を前提にビジネスモデルや情報システムを構築する。クラウドも全く同じ道程をたどりつつあるのだ。

「オープンメインフレーム」が登場する

 クラウドはブームを過ぎて前提になった、と記者が考えるに至った理由は三つある。一つは海外の大手メーカーの動きだ。クラウド時代にふさわしいアーキテクチャーを持つコンピュータを、相次いで発表している。アプリケーションを除くインフラ製品、つまりサーバー、ストレージ、ネットワーク、OS、仮想化ソフト、アプリケーションの開発・実行環境、運用管理ソフトといった一連の製品を、1社または同一陣営で用意する。そしてこれらを一体のものとして、設計・開発したコンピュータである。

 各々の製品や技術は、汎用品だったり業界標準に準拠したものだったりする。つまりオープンシステムの製品だ。ただし構成はメーカーによる決め打ち。製品の選択からシステム全体の設計、開発を一貫して手掛ける。ただ組み合わせるだけではなく、処理性能を高める機能や管理機能を、メーカーが独自に作り込む。開発手法はメインフレームの垂直統合方式だ。

 オープンシステムのソフトとハードを使い、メインフレーム方式でこれらを一体化したコンピュータ。記者はこれを「オープンメインフレーム」と呼んでいる。業界標準に準拠し、他システムとの連携が容易なオープンシステムの利点と、メーカー1社が責任を持つことで組み合わせ作業の手間が不要なメインフレームの利点。これらのいいとこ取りを狙った。

 オープンメインフレームはクラウドを支える理想型の一つだ。クラウドコンピューティングの最も本質的な要件とは、コンピュータ資源を必要に応じて、柔軟に利用できるようにすることにある。これを支えるコンピュータには、高い処理性能や信頼性に加えて、必要に応じて柔軟に増減できるコンピュータ資源、コンピュータの物理的な違いを意識しない運用管理などが必要だ。

 こうした要件は、ソフトとハードを一体化することでしか達成し得ない。メーカー各社がこう考えて選んだ答えが、オープンメインフレームである。

「儲かることしかしない」オラクルが参入

 満を持してオープンメインフレームを発表したのが米オラクルだ。9月19日から23日まで米国サンフランシスコで開かれた年次イベント「Oracle OpenWorld(OOW)San Francisco 2010」で、「Exalogic Elastic Cloud」と呼ぶ新システムを発表した(関連記事)。

 同社はExalogicを「Cloud in a Box」と呼ぶ。「クラウドを構成するために必要なソフトとハードを組み合わせ、動作や信頼性、性能を事前に徹底的に検証し、チューニングした状態で出荷する」(ラリー・エリソンCEO)からだ。

 オラクルは同時に、次期アプリケーション製品群「Fusion Applications」も発表。こちらもクラウド対応を前面に押し出した。顧客企業は自社運用のソフトウエアとして利用しても、オラクルのデータセンターからのサービスとして利用してもよく、好きな方を選べるという。「オラクルはパブリックかプライベートかを問わず、両方の環境でクラウドを実現する」(エリソンCEO)。