日経情報ストラテジーは2010年12月号で「第3回現場改革力ランキング」を作成した。現場改革力ランキングは企業の財務諸表を基に、直近3年間(3月期決算の場合、2008年3月期~2010年3月期)での現場の「継続的な改善度」を指標化し、順位づけしたものだ。ランキング上位に入った企業には、改革・改善活動をどう現場で実行しているのかを個別に取材した。

 今回は評価対象期間のほぼ中間である2008年秋にリーマン・ショックが発生した。その影響で、改善活動に取り組んできたにもかかわらず、業績が悪化してしまった企業が少なくなかった。

 そのような厳しい経営環境にあって、改革・改善活動で成果を上げた企業の1社が、男性化粧品大手のマンダムだ。直近3年間は安定して10%前後の売上高営業利益率を上げており、今回のランキング対象企業約600社中では総合7位に入った。

写真1●マンダムの情報カード
写真1●マンダムの情報カード

 化粧品市場は景気動向に左右されにくいといわれるが、それでもリーマン・ショック後の2008~2009年には市場規模が縮小した。しかも最近は医薬品メーカーなどの新規参入が続いている。そのような激しい競争環境でも安定した業績を残してきた原動力は、同社が25年以上にわたり活用している「情報カード」と呼ぶ横長で封筒大の手書きの用紙だ(写真1)。

 この情報カードを駆使しながら、同社の営業担当者は小売店の売り場などで情報収集に励んでいる。そこで得た情報を「消費者にとって分かりやすく楽しい売り場を作るアイデアに生かし、小売店に提案してきた」(寺林隆一取締役常務執行役員営業統括)。

 小売店の売り場の改善提案は他社も取り組んでいる。採用されるかどうかは、提案にどれだけ説得力があるかどうかで決まる。しかしPOS(販売時点情報管理)データだけでは、消費者の嗜好(しこう)の変化などの定性的な情報をなかなか読み取れない。情報カードで収集する情報は提案活動に不可欠だ。

 汗拭きシートを例に取ると、顧客の購入目的が「洗顔」だけでなく、「気分転換」などに徐々に広がっている傾向を、マンダムの営業担当者は小売店の店員などへのヒアリングからつかんだ。こうした現場からの定性的な情報が、売り場の改善提案に説得力をもたらす。

 前線の営業担当者が記入したカードは関連する部署で回覧し、現場の動向把握に生かしている。質の高い情報カードの内容は、社内報の「情報カード速報」やイントラネットを通じて全国の営業所が素早く共有する。こうした情報共有は、有効な施策をいち早く全国で展開するのに役立つだけでなく、記入した営業担当者のモチベーション向上にもつながる。