最近、日本国内に複数のコンピュータメーカーが存在することの戦略的意義を考えている。IBMとかマイクロソフトとかを想定した日米比較論では、いつもトホホ状態だが、観点を変えると全く違った未来が見えてくる。日本のIT産業はアジアを“国内市場”にしていかなければ先は無いのは明白だ。ただその際、国産メーカーの存在は大きなアドバンテージとなるはずだ。

 世界でコンピュータを造れるメーカーが存在する国はどこか。誰でも作れるPCを別にすれば、米国と日本しかない。欧州では絶滅したし、AV機器や自動車では血眼になる中国や韓国も、高性能の商用サーバーやストレージなどを製造する意思はほとんど無い。おそらく中国や韓国は、クラウドの時代だからハードウエアはPCサーバーなどのコモディティで十分と考えているのだろう。

 ということで、米国を除けば日本のみにコンピュータメーカーが残された。よくもまあ狭い市場の中で、富士通、日立製作所、NECの3社もが残ったものだと思う。狭い市場ゆえ、製造業だけでは足らず、システム開発・運用というサービス業としての力も付けてきた。日本のユーザー企業が育んだ“レガシー資産”と言ってよい。しかもある意味、歴史の皮肉だが、IBMなど米国勢の影響力が圧倒的に強かったため、他の産業と異なりガラパゴス化しないで済んだ。

 さて、富士通や日立、NECを育んだユーザー企業が今、国外へ出て行こうとしている。主な行き先は、もちろんアジアだ。それに合わせて、自らのデータセンターをシンガポールに移したなんて話をよく聞くようになった。国産メーカーをはじめとするITベンダーも当然アジアへ行かねばならない。そして、現地のユーザー企業向けのビジネスも展開し、アジアという巨大な“国内市場”に根付いていく必要がある。

 ITベンダーのアジア進出は、もはや当たり前すぎる話で面白みは無い。ただ、国産メーカーの存在を考えると、よりポジティブな意味合いが出てきて俄然面白くなる。アジア諸国、特に中国は自国の基幹系システムを、IBMなどの米国勢に染め上げられたくないと思っている。自国の企業では賄えないのは先に書いた通りで、そうなると残された手は、他の勢力を引っ張り込んで米国勢の席巻を防ぐことだ。で、日本のメーカーにお呼びがかかるわけだ。

 まあ、国同士の摩擦もあり事はそう簡単にはいかないだろうが、中国では日本のメーカーは少なくとも歓迎される。当然いろいろと難しい点もあるが、そのアドバンテージを使わない手はない。つまり、日本のメーカーは中国をはじめとするアジアで、IBMなど米国メーカーの対抗勢力としての地歩を築ける可能性が高いわけだ。

 もちろん、クラウド時代には高性能サーバーは要らず、規模の経済が効くPCサーバーなどで十分だという話もある。それは真理に近いが、大規模なクラウド基盤を運営するには、ITインフラの中身を熟知し、様々な事態に対処できる運用ノウハウや保守能力がいる。日本のメーカーは完全ではないとはいえ、自社製品で固めた大規模データセンターの運営ノウハウは持ち合わせている。

 ということで、日本のメーカーはメーカーとして存続してきたがゆえに、アジアで結構面白い戦いができると思う。これに生産管理などの日本発のソリューション、そしてこの前書いた「オンリー・イン・ジャパン」なものがあれば、相当のことができる。そのオンリー・イン・ジャパンなものだが、それは外国人が「クレージーだ」と思い、そして感動するきめ細かなサービスだろう。そう日本流のSIサービスなどだ。

 最後に蛇足ながら、コンピュータメーカーでない日本のITサービス会社についても一言申し添えておく。日本発のソリューション、そしてオンリー・イン・ジャパンのサービス力があれば、アジアでそれなりに戦えるのではないか。日本のIT産業のユニークさをガラパゴス化ととらえないで、アドバンテージに変える発想があればよいと思う。