政府はICT分野における国際競争力強化の取り組みを進めている。その一つが“国際標準化戦略の策定”である。これは総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース 国際競争力強化検討部会」の下に設置した「国際標準化戦略に関する検討チーム」で検討が進んでいる。2010年10月5日には、検討の取りまとめ案が示された。

 目を引くのは、標準化を進める場として、ITU-RやITU-Tといったデジュール機関(公的な標準化機関)からフォーラムへ軸足を移すと明言したことだ。これは3GPPやIEEEといったフォーラムで決められた標準がデファクトとして力を持ち、その後デジュール標準として認められるといった事例が増えていることを受けてのものである。取りまとめ案では、総務省が主催する「情報通信審議会 情報通信技術分科会」の「ITU-R部会」「ITU-T部会」など、デジュール機関単位で開催していた検討組織を変更することにも言及している。

 フォーラム重視の姿勢は評価できるが、フォーラムに参加すれば国際標準化の中心を取れるという簡単なものではない。素晴らしい技術を日本国内で確立してから持ち込んでも、相手にされないことは多い。あるフォーラムの参加者によると、「フォーラムでいきなり技術提案されても、以前からの検討に参加していない者が何を言っているのか、という空気が流れる。当然否決される」という現実がある。

日本人が提案した例もある

 この状況を打開するには、日常的にフォーラムの活動に参加することが不可欠である。その中で新しい技術を提案していくという流れを作らなければならない。

 例えばIEEE802.11では、無線LAN利用時のセキュリティ認証プロセスを大幅に高速化するための仕様作りに着手している。名称は「Fast Initial Authentication(FIT)」という。認証にかかる時間が短くなるため、歩きながらまたは電車で移動しながら、無線LAN経由でツイッター更新情報、株価情報、メール更新情報などをスマートフォンで受け取るといった仕組みを作ることができる。この技術は既にSG(Study Group)での検討を経て、11月にもTG(Task Group)で本格的な仕様策定作業に入る。

 実はこの標準仕様を提案したのは日本人である。日本から提案し、SGやTGにつながることは珍しい。この標準化を推進しているのはルート 代表取締役の真野浩氏で、SGのチェアマンも務めている。真野氏は「日常的にフォーラムに参加しており、提案レベルから活動を行っている。インプリメンテーションでも先行できるのではないか」と説明する。

 日常的にフォーラムに参加することで標準化の主導権を握った、FITの活動は参考になるモデルであろう。しかしこのモデルを実践する上で、意外な壁が立ちはだかる。フォーラムは海外で行われることが多い。その旅費を渋る企業が増えているのである。ある参加者は「標準化活動はすぐに業績に結びつきにくい。経費削減の折、旅費を出してもらえない日本の担当者は少なくない。海外で遊んでいるように思われることさえある」と指摘する。これでは政府がいくら笛を吹けど、最前線の担当者らは踊りようがない。世界に出る日本企業には標準化活動にかかる費用に理解を示す必要がある。