「中国企業からシステム開発を受注するのは怖い。納品しても開発費を支払ってくれないことが多いからだ」。ある国産ベンダーの幹部から、こうした話を聞いたことがある。本当にそんなことがあるのか。疑問に感じた記者が、他のベンダーの幹部に真偽を尋ねてみると、返ってきた答えは「その話は本当だよ。当社も困っている」というものだった。

 上海-茨城間を片道4000円で結ぶ格安航空会社が登場するなど、中国はますます身近な存在になりつつある。GDP(国内総生産)で日本を抜いて世界第2位になったり、中国の民主活動家である劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞したりと、中国にまつわる話題には事欠かない。前向きな話だけではなく、最近では尖閣諸島問題のようなことも起こっている。

 日本にとって、様々な意味で関係が深い中国であるが、その実態はいまいちはっきりしない。IT分野でも、冒頭で紹介したような、日本の常識からすれば考えられないようなことが現地では当たり前だったりする。

 その一方で、「本当のようだが実は違う」といった類のうわさもある。例えば、「中国企業がシステム開発の発注先を決める際は、ITベンダーの実力よりも人脈を重視する」ということだ。確かに一部の企業にはそうした習慣が残っているようだ。だが多くの大手企業や成長企業は、「人脈や過去の発注実績などにとらわれず、むしろ提案内容と価格だけを見てドライに判断する。同じ財閥系を優遇する日本企業よりも、よっぽど合理的」(国産ベンダー幹部)という。

13のウソホント

 中国に限らず、うわさには本当と嘘が入り混じっている。だったら、中国の情報化に関連するうわさのどれが本当のことで、何が嘘なのだろうか。うわさの真偽を確かめるため、記者は中国に向かった。

 正確に言うと、中国に向かったのは、うわさの真偽を確かめるためではない。日経コンピュータの最新号に掲載した、「大胆不敵、貪欲の中国」と題する特集の取材のためだ。特集では50ページを割き、中国企業の情報化の実態や中国政府のスマートシティ計画の全貌、中国事業の拡大に挑む日系企業の奮闘ぶりなどをまとめた。

 この特集の中で、中国の情報化にまつわる10のうわさと、その真偽を紹介した。ここでは、誌面に掲載した内容に初公開の三つを加えた13のうわさと、それらの真偽を紹介する。順に見ていこう。

うわさ:対価を支払わない場合がある
ホント
 商習慣としては先払いが基本のため、後払いに慣れておらず、稼働後に支払う約束だったシステム開発費の残額を何年も支払わないことがある。現地事情に詳しいITベンダーは先払い契約を求める。

うわさ:お金に特にシビア
ホント
 出費を抑えるため、ハードウエアの価格やシステム開発費用にはシビアだ。調達の際は複数の見積もりを取り、値引きを迫るのが基本。あるベンダー幹部は「9割引きを迫られたことがある」と打ち明ける。

うわさ:発注先の選定は人脈重視
ウソ
 必ずしも人脈重視でシステム構築の発注先を選ぶわけではない。情報化で先行する企業は、機能や価格、実績で正当に評価する。ただし人脈に頼って地元ベンダーに頼む習慣も残ってはいる。

うわさ:サーバーの二重化はしない
ホント
 サーバーを二重化している企業は、まだまだ少ない。可用性を重視するようになりつつあるとはいえ、余分に買うのはムダと考えるのが主流だ。だが大手では二重化に踏み切る企業も増えている。

うわさ:サーバーは自社で持つ
ウソ
 データセンター事業者が提供するホスティングサービスを利用する企業が増えている。企業間の競争が激しくなり、システムに可用性が求められるようになりつつあるからだ。

うわさ:小型サーバーを多用する
ホント
 中国企業は基本的に小型のPCサーバーを好む。大型サーバーを使うよりもIT投資を抑えられるからだ。メインフレームなどの大型機を導入するのは、4大商業銀行などごく一部に限られる。

うわさ:システムは分散型が主流
ホント
 省単位で法制度が大きく異なるので、システムを省単位で配置し、分散構成を採る企業が多い。通信事情がそれほど良くないことも影響している。一極集中型のシステムを持つ企業はほとんどない。

うわさ:ソフトは海賊版を買う
ウソ
 海賊版ソフトが横行しているイメージがあるが、それは個人ユーザーの話。企業は通常、正規版を買う。ただ社員が海賊版をこっそり買い正規版との差額をもらってしまうことはあるようだ。

うわさ:要件定義は“いい加減”
ウソ
 発注前に操作画面のプロトタイプをITベンダーに求めるなど、要件を固めてから開発に臨むことが多い。ただし、稼働直前に要件を変えるケースもある。これはどこの国のユーザー企業も同じである。