「意志あるところに道あり」。NECの遠藤信博代表取締役・執行役員社長は2010年9月29日、筆者のインタビューに対して、業績不振に陥った問題を解決し、クラウド事業の強化と新規事業の立ち上げ、グローバル化の推進によってNECを再び成長路線に乗せる強い決意を語った。

 遠藤社長は、赤字転落(2008年度に3000億円弱の当期純損失)した大きな原因について、「一言では言えないが、“技術のNEC”なのに技術をビジネスにできなかったことに一番の問題がある」と話す。開発した技術がマーケットに貢献していないのだ。顧客の求めているものと、NECが提供するものにギャップが生まれたので、「NECの全リソースを使ってもビジネスにならない。時代に合わなくなってきた」(遠藤社長)。

短期的に利益を捻出するため、縮小均衡に陥っていた

 だが、その解決策をなかなか探し出せなかったNECは10年近く、売上高が5兆円前後で推移したままだった。業績が伸び悩んだのは、超短期志向に陥り、目先の利益を追求しすぎたことにもあった。

 そこで、前任の矢野薫社長(当時、現会長)が2008年4月に、NECの10年後のあるべき姿を示したグループビジョン2017を策定した。2009年度は固定費削減で利益を確保したものの、縮小均衡の状態から抜けられたわけではない。2010年に半導体子会社を非連結化した結果、2010年度の売上高は4兆円を大きく割り込む3兆3000億円にまで下がる見通しである。

 そうしたなかで、「あるべき姿に向けた自己変革プログラムのグループビジョン2017を確実に実現させるためのマイルストーン」(遠藤社長)と位置付けた中期経営計画V2012を2010年2月に公表した。2012年度に売上高4兆円、当期利益1000億円、ROE(自己資本利益率)10%、海外売上比率25%という数値目標をV2012に盛り込んだ。

 年率8%で売り上げを伸ばすという高い目標だが、遠藤社長は達成に強い決意で臨む。「いままでの中計は1年ごとに作る、数字のお遊びになっていた感じがあった。だが、今回の中計はどうありたいのか、どうあらねばならないのかを盛り込み、さらにどこまで達成できたのかステップごとに確認する。進捗に遅れがあれば、スピードを上げる施策を打つ」。

戦略より意志が重要

 V2012の目標数値を達成させる具体策は、クラウド事業と新規事業、グローバル化になる。クラウド事業では、NECの全リソースを使ってソリューションを作り出すという。新規事業も同様に、NECの技術などの資産を使って、新しい領域やマーケットを開拓する。そして、グローバル市場へと活動を広げていく。

 遠藤社長は「体質を含めて変わっているのかが問題」と自己変革を重要視する。特に“意志”にこだわる。

 遠藤社長は事業部長時代に、携帯電話の基地局間を結ぶなどの用途で利用される小型マイクロ波通信システム「PASOLINK」のグローバル展開を成功させた経験がある。国内中心に展開していたPASOLINK事業は2003年度に赤字に転落していた。遠藤社長は「なんとかするには、海外に出るしかない。2年で黒字にしなければ、私はクビだろう」と背水の陣で臨んだ。「諦めてやめる手もあったが、現状がだめだからとの理由でやめるのはおかしなこと。可能性があるなら、期限を決めて頑張る。その意志が重要なのだ。リーダーが引っ張り、社員一人ひとりが成し遂げる意志を持てるかにある」。事業の成否は意志にあるというのだ。結果として、PASOLINKは140カ国以上で販売され、グローバルでトップシェアを獲得するに至った。

 だから遠藤社長は事業を推進するうえで、数値目標や戦略より意志を重要視する。「リーマンショックなど経済環境が大きく変わると、数値目標を達成できないことがある。一方、戦略ドリブンのプロジェクトは、環境が変わるとやめてしまうことがある。だが、なんとかやり遂げようとする意志があれば、もう一度戦略を見直すこともできる」。

 遠藤社長は「マーケットに対して、どんな貢献をするのかという意志が大切である。そうでないと、より安全な道ばかり考え、最後はシュリンクしてしまう。貢献することを常に考えるように、私が鼓舞する」と話す。

 この意志を共有する人材がどれだけいるのか。それがNEC再生の成否を握っている。

■変更履歴
記事公開当初、第4段落で「2009年に中核の半導体事業を売却した結果」としていましたが、正しくは「2010年に半導体子会社を非連結化した結果」です。第5段落の「ROI(投資対効果)10%」は、正しくは「ROE(自己資本利益率)10%」です。また、最後から4段落目で「遠藤社長は事業本部長時代に」としていましたが、正しくは「遠藤社長は事業部長時代に」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2010/10/15 15:00]