どんな職種でも、5年後、10年後に自分がどんな仕事をしたいのかイメージして、それに向かって努力をすることは、とても大事だと思う。いわゆるキャリア設計である。

 「キャリア設計なんか無駄。なるようにしかならない」と言う人もいるだろう。でも、キャリアのことを考えずに日々の仕事をこなしていたら、人間、あっという間に年を取ってしまう。気がつくとキャリアの選択肢が極端に狭まっていて「こんなはずじゃ」と後悔することになりかねない。やはり若いうちに、ある程度、将来のキャリアを思い描くことは重要だろう。

 キャリア設計に関して、若いITエンジニアに指針を提供したい---こんな目的で実施されたのが、経済産業省の「IT人材職種別モデルキャリア開発計画策定事業」である。世の中にはほとんど知られていないが、なかなか良い事業なのだ。

 この事業は、経済産業省の「IT人材育成強化加速事業」の一環として、IPA(情報処理推進機構)のIT人材育成本部ITスキル標準センターが実施したもので、「ITスキル標準」の9つの職種(コンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネジメント、ITスペシャリスト、アプリケーションスペシャリスト、ソフトウェアデベロップメント、カスタマサービス、ITサービスマネジメント、エデュケーション)について、各10人ずつ合計90人のトップレベルのエンジニアにインタビューを実施。インタビューに基づいて、職種ごとの標準的なモデルキャリアパスとキャリアアップのポイント、トップレベルのエンジニアを目指す人たちに向けたメッセージ集、企業の人材育成のヒントとなり得るノウハウ集などをまとめた。

 特に興味深いのが、職種ごとのモデルキャリアパスの図である。これは、縦軸にITスキル標準のレベル、横軸に社会人経験年数を取り、経験年数とレベルごとに、「その時期における業務内容や役割」「レベルアップのために重要なポイント」「その時期に受講する研修」「その時期における役職、職種」などを示したものだ。

 例えば、ITスペシャリストであれば、1~5年目は主に専門性を身に付けて、6~10年目は現場で活躍することで自分の専門性が顧客から評価され自信を付ける。11年目以降は、専門領域の拡大や転換に取り組む…といった具合である。

自分に足りないものが見えてくる

 このモデルキャリアパスは、先述したように、トップレベルのエンジニアへのインタビューに基づいて作成されている。いわば、その職種として成功するための“理想的”なキャリアパスである。

 これを見ると、その職種で成功するためには、入社何年後にはどんな業務内容や役割を担うべきで、どんなスキルを身に付けるべきかがよく分かる。自分の今の役割やスキルと照らし合わせながら見ると、その職種でキャリアアップするために自分に足りないものが見えてくるだろう。

 もちろん、あくまでも標準的なキャリアパスなので、この通りになるわけではないが、それでも、世の中の一般的なキャリアパスを知ることは、大きな意味があるだろう。若いエンジニアだけではなく、キャリアチェンジや転職を考えている人にも、参考になりそうだ。

 「IT人材職種別モデルキャリア開発計画策定事業」の成果は、報告書として、経済産業省のWebサイトで公開されている。ただし、これは、いかにもお役所の報告書という体裁で、お世辞にも読みやすいとは言えない。

 そこでITproでは、IPAの協力を得て、この事業の成果を、連載の形で分かりやすく解説することにした。連載では、各職種のモデルキャリアパスを説明するとともに、ハイレベルのエンジニアにキャリアアップするためのポイントも説明する。連載は10月12日にスタートする予定なので、ご期待下さい。