やはり、これは「あり」だな。最近のスマートフォンブームを目の当たりにして、そんなふうに思った。何のことかと言うと、以前書いた「個人のパソコンが企業情報システムのクライアントになる日」の話。この記事のタイトルは「パソコン」としたが、まずは個人所有のスマートフォンを情報システムのクライアントにすることが一般化する。それから、個人所有のパソコンも・・・。これはクラウド=ユビキタス時代には、当たり前になるかもしれない。

 前の記事では、ある大手企業の情報システム部門の人から聞いたことをもとに、コスト削減の観点でこの話を書いた。今や企業では1人1台どころか、モバイル用途も加わり、1人の従業員が複数台のパソコンを使うことも珍しくない。当然、企業にとってはパソコンの導入コストの引き下げが大きな課題となっている。個人所有のパソコンを使えば、企業の導入コストは最小限に抑えられる。従業員も自分の愛機を仕事で使えるのだから喜ぶだろう。そんな話だ。

 この話をコスト削減の観点ではなく、もっと前向きに考えてみる。iPhoneやAndroid端末などのスマートフォンの普及が始まったことで、今や本格的なユビキタス時代が始まろうとしている。企業も当然、従業員の生産性向上、あるいは増力化の観点から、様々な情報機器を自社の情報システムのクライアントとして使えるようにした方がよい。ただし、そうした様々な情報機器を企業がそろえる必要があるのだろうか。

 既に個人は様々な情報機器を所有している。自宅にはパソコンがあり、携帯電話はほぼ全員が持っている。そして、最近ではスマートフォンだ。そうした状況で、企業が新たに“専用クライアント機”を従業員に支給するのは、ある意味、二重投資といえる。従業員にとっても、持ち歩く情報機器が増えるのは、あまり楽しいことではない。むしろ、個人所有の情報機器を情報システムのクライアントに迎え入れた方が、よほど生産的だ。

 もちろん、情報システムのすべてのクライアントを個人所有のものに置き換えるのは、非現実的だろう。ただ、ユビキタス時代には、所有形態も含めクライアントの多様性は不可欠なものとなると思う。クライアントが個人所有でも、セキュリティや情報漏洩防止対策は何とかなる。あとは、通信料金などのコスト負担を、企業と従業員の間でどうするのかで折り合いをつける必要があるが、これは決めの問題だ。

 クラウドコンピューティングの普及で、サーバーサイドも「持たざるIT」が当たり前のものになりつつある。クライアントサイドもそうなれば、企業の「持たざるIT」化はどんどん進む。今後、企業の情報システム部門の役割は、システムの構築・運用からITサービスのデリバリや情報のハンドリングに焦点が移っていくだろう。

 さて、ITベンダーである。前回の記事で、コンピュータメーカーについては厳しい未来が待っていると書いた。クラウド事業者や大規模データセンター向けと、コンシューマ向けのビジネス比率がどんどん高まる結果、価格面でシビアになるし、強力なマーケティング能力も必要になってくるからだ。では、SIerはどうか。個人所有の情報機器も含めたインテグレーション、新たなセキュリティ対策などのニーズが見える。この状況は、少なくとも短期的にはSIerにとって「あり」だろう。