「エンタープライズ系クラウドサービスの売り上げを、2012年度に1100億円にする」。NECでITサービスBU(ビジネスユニット)を統括する富山卓二取締役 執行役員常務は2010年9月中旬、グループ会社を含めたシステムエンジニア(SE)約3万人のうち、約1万人をクラウドサービス関連に振り向けて目標を達成させる意気込みを語った。

 NECが提供するクラウドサービスの最大の特徴は、基幹系アプリケーションまで用意したこと。約400億円を投入して構築する会計などの経営情報システムがそれで、NECグループ57社に適用する経験を生かして横展開を図っている。すでに大手企業数社から受注を獲得した。
 もう一つの特徴は、ホテルや住宅、自治体など業種別クラウドサービスをメニューにそろえていること。「業務機能をサービスとして提供することにフォーカス」(富山常務)し、品ぞろえを拡充している。競合の大手ITベンダーがITインフラとアプリケーション開発・テスト環境のPaaSや、単品SaaSの提供にとどまっていることから考えると、NECはクラウドサービスに積極的な姿勢をみせているといえる。

要件を聞き、作るSEはもういらなくなる

 理由はいくつかある。その一つは、システムインテグレーション(SI)というシステム構築事業に限界を感じていることだろう。富山常務は「要件を聞き、作るSEはいらなくなる」と語り、ユーザーが要件を決めてからシステム構築を請け負うビジネスは先細りなるとの見方を示す。

 ただし、そう急激なものではない。2012年度に、SIのうち15%から20%がクラウドサービスを利用したものになるとみている。なので、クラウドサービス関連に振り向けたSEは目下のところ約1000人、売り上げ実績は100億円程度と小さい。

 富山常務は「計画通りに進んでいる」とするが、NECの予想以上のスピードでクラウドサービスへのシフトが進む可能性は大きい。総務省によると、「クラウドサービス市場は2010年の約7500億円から2015年に約2兆4000億円」(情報通信白書2010)に拡大する。このスピードで進めば、2020年にSIの半分近くがクラウドサービスになる。NECの売り上げ規模から推測すれば、3000億円超に相当する。1万人のSE投入と、SI市場におけるシェアから考えて、その程度の数字は必要に思える。

クラウド事業が一本化できていない

 その実現に欠かせないのが、「サービスプロバイダー」から「ユーザーのビジネスパートナー」への業態転換である。ユーザーにITサービスを提供し、後はユーザーに使い方を考えさせることではなく、「ユーザーと一緒になって新しいビジネスモデルを考える」(富山常務)こと。高い専門知識、業種知識を持つ人材を揃えられるかがカギになる。

 もう一つ大きな課題がある。クラウドサービス事業の一本化だ。中堅・中小企業向けSaaSや共同利用サービスは、ハードやソフトを開発するプラットフォームBUや子会社のNECネクサソリューションズも提供している。9月中旬に発表したプラットフォームBUのOA系クラウドサービスは、「ハードやソフトを売らんがため」のサービスにも見える。

 実は、中堅・中小企業向けクラウドサービスは、基本的にNECネクサに任せるとの方針があったが、ITサービスBUの業種別組織が業種別SaaSを市場に投入した。大手企業か中堅企業か、全国規模か地域特化か、といったすみ分けがはっきりしていなかったからだろう。もう一段の組織再編が必要に思える。

 こうしたことを含めて、クラウドサービスの責任部署と責任者を明確にし、目標達成への道筋を作成する。そして、もし目標に届かなかったら、どこに問題があったのか分析し、次の一手を素早く打ち出す。NECに、目標達成の強い決意と実行力が求められている。