ITエンジニアが現場で育つためには、ある程度の時間的なゆとりが必要なのではないか---。日経SYSTEMS 2010年10月号(9月26日発行)の特集記事「プロジェクトで人は育つ」の取材・執筆を担当していくなかで、こうした思いを強く抱いた。

 システム開発プロジェクトこそ、開発に携わるITエンジニアのスキルを飛躍的に伸ばす場である。特集記事は、このようなスタンスで取材・執筆した。開発言語の使い方やプロジェクトマネジメントの手法は、書籍や研修を通して勉強できる。しかし実際にプロジェクトという現場で適用してみないと、実践的なスキルとして身に付かない。特集記事では、プロジェクトメンバーが現場でスキルアップを図るのに有効な取り組みや工夫を紹介している。

 ただし、プロジェクトという現場でITエンジニアが急成長を遂げるためには、いくつかの条件がある。記者は特集の取材を通して、「ある程度の時間的なゆとりを作る」ことが大切な条件の一つだと感じた。

 例えば、特集で取材したある事例では、プロジェクトに参加したメンバーが「今の自分には解決するのは難しい」と思うような課題を、自分で考えて解決していた。これができたのは、「ある程度の時間的なゆとりを作る」ことが可能だったからこそである。もう少し具体的に説明しよう。

「悩み抜いて課題を解決した」経験が生きる

 ITエンジニアのA氏はそれまで、「既存システムの改修」といった、やるべきことが明確なプロジェクトしか経験していなかった。そのA氏があるプロジェクトで、「システム構想の立案」を任されることになった。

 システム構想の立案は、言わば無から有を生み出す作業である。既存システムの改修プロジェクトでの経験は通用しない。A氏にとって大きなチャレンジとなった。A氏は試行錯誤しながら、システム構想の立案に取り組んだ。結果的に、システム構想を立案し、開発に落とし込むまでの仕事をやり遂げた。

 A氏が課題を無事に遂行できたのは、試行錯誤するだけの「時間的なゆとり」があったからだ。システム構想を立案しようとすると、プロジェクトの複数のステークホルダー(利害関係者)へのヒアリングや調査に多くの時間を割く必要がある。いったん作ったシステム構想の修正や見直しが必要になるケースも少なくない。

 要は、ITエンジニアがプロジェクトで育つためには、課題解決のために悩み抜くだけの余裕が必要ということだ。サインポストの蒲原寧氏(代表取締役社長)は「自分にとってレベルの高い課題をクリアした経験を持つメンバーは、大きな問題に直面しても、落ち着いて対処できるようになる。問題が起きる前に先手を打つようにもなるので、仕事を安心して任せられる」と話す。

 課題を自分で考えて解決することで、ITエンジニアは解決に向けた考え方や注意点を学べる。さらに自分で解決できたことが自信につながるので、難しい仕事が来ても、ひるまなくなるのだ。

メンバーの意識付けやフォローの仕方にも注意

 もちろん時間的なゆとりを与えれば、ITエンジニアが必ず成長するわけではない。「『自分が担当する仕事を良いものに仕上げる』という強い意識を持ってメンバーが課題解決に臨むことが大切だ」とサインポストの蒲原氏は指摘する。「仕事を良いものに仕上げるために、課題をどう解決したらよいか」と、メンバーが主体的に考えないと、成長につながらないからだ。

 仕事を割り当てるマネジャーやリーダーのフォローも大切だ。ベテランのプロジェクトマネジャーであるB氏は「メンバーに仕事を割り当てたら何のフォローもせず、『あとは仕事をこなすなかで育ってくれる』と考えるマネジャーやリーダーが少なくない」と指摘する。

 こうしたフォローしないマネジャーやリーダーは、メンバーから「仕事が進んでいない」という報告を受けると、「なぜできない」とメンバーを責めるだけだったり、「とにかく頑張れ」などと具体的な方針を示さずに突き放したりすることが多いという。「こうしたプロジェクトに携わるメンバーが育つことはない。最悪の場合、メンバーが次々と辞めていき、現場でのやりくりが厳しくなる」と、B氏は指摘する。

 「時間的なゆとりを作れ」と言われても、期限が設定されているシステム開発プロジェクトでは難しいかもしれない。それでも「人育て」を多少なりとも意識するのであれば、メンバーが課題を考え抜くゆとりを作ると同時に、マネジャーやリーダーが気配りや目配りすることが大切だといえよう。