今からちょうど10年前、2000年9月18日午前0時にITproは産声を上げました。

 10年間にわたって、読者の皆様にはITproの記事やサービスをご利用いただき、またイベント、セミナー、書籍、ムックなどをご活用いただき、誠にありがとうございます。この場を借りて、心より御礼申し上げます。

「常識を疑え」を痛感させるクラウドの隆盛

 サイトオープンから約2週間が経過し、システムが安定し始めた2000年10月3日。日本経済新聞と日経産業新聞に、ITproのサイトオープンを告げる全面広告が掲載されました(写真)。最上部には、「前にならうな」(正確には、「前に、ならうな。」)という大きな文字が躍っています。その下にはサイト名。ご覧のように、現在の「ITpro」と違って、当時のサイト名はPが大文字で、ITとProの間が空いていました。

タイトル
サイトオープンを告げる2000年10月3日付の新聞全面広告

 「前にならうな」というコピーは、当時の横田英史 編集長をはじめとするスタッフが、前身サイトである「BizIT」の名前を捨てて新たにスタートを切るのにあたり、情報発信やサイト運営のあり方について自らを戒めた言葉です。「常識にとらわれるな」あるいは「常識を疑え」と言い換えてもいいでしょう。

 10年を経て、ITproのサイト運営方針も、サイト構成も、記事のラインナップも当時とは大きく異なりますが、この言葉の重みは今も変わらない、むしろずっと重みが増しているとさえ感じます。筆者がそのことを痛感するのは、とりわけ現在のクラウド・コンピューティングの隆盛を目の当たりにするときです。

 企業経営やビジネス活動を支えるエンタープライズITの世界では、我々メディアにも、システム構築に携わるIT関係者にも、あるクセがあるように思います。それは、従来の常識から外れた新しい技術やビジネスモデルが突然現れたときに(特にそれらがコンシューマ向けサービスの世界から誕生したときに)、いったん距離を置くか、自分との距離を測ろうとするクセです。悪く言えば、少し冷めた姿勢で接するわけです。

 信頼性、可用性、堅牢性など、カタイ3文字の特性が最重要視されてきたエンタープライズITの世界なので、これはある意味仕方のないことかもしれません。しかし、こうした全く新しいタイプの技術やビジネスモデルが登場してから、その本質が理解され、受け入れられるまでに、どうしても時間をロスしてしまいます。

 2007~2008年ごろのクラウドを巡る状況がまさにそうでした。システムの所有者であるユーザー企業や、パッケージ・ソフトのライセンス収入をビジネスの中核に置くIT企業が慎重になるのは当然として、エンタープライズITの総合サイトを標榜するITproも、そうした企業の姿勢に引っ張られるように、クラウドという技術をどう位置づけるべきか大いに悩みました(関連記事)。

 改めて言うまでもありませんが、昨年以降、クラウドのポジションは一変し、今や企業情報システムにかかわるIT関係者にとっての最大関心事といっても言い過ぎではありません。幸いITproは、2008年の早い時期に腹を括って「エンタープライズ・クラウド」という名称の専門サイトを立ち上げ、この分野での情報提供においてタイミングを逸することは避けられました。

 それにしても2~3年前の状況がウソに思えるような、急激なクラウドの存在感の高まりです。これは見方を変えれば、クラウドがエンタープライズITの住人に、常識を疑うことの重要性を教えてくれている、と言えます。

 エンタープライズITの世界で長年仕事をしてきたIT関係者も、我々メディア関係者も、クラウドの登場から現在の隆盛までを経験した今となっては、一見常識外れの新技術が登場したときに、その価値を慎重に見極めようとするのではないでしょうか。ITproはそう肝に銘じたいと考えています。

 このことは、扱う情報の中身だけでなく、情報提供やサイト運営の仕方についても同様です。

 ITproが今年4月に実施したサイトリニューアルでは、従来のITproのスタイルや慣習を崩す三つの変更を加えました(関連記事)。「特集」の位置づけの大幅変更(総合トップの最も目立つ場所に掲出)、Focusの新設を含むサイト構成の抜本的見直し、そして記事閲覧時の会員認証制の導入です。

 これは、いわば内輪の話であり、あくまでもITpro内の常識を捨てたということに過ぎません。ただ、ニュースや既存テーマサイトに対する読者の期待を裏切らないか、ページビューが減らないか、といった心配を乗り越えるために大きなエネルギーが必要でした。

 重要なのは次の10年に向けて、ITproがこのスタンスを維持していくこと。そのためにもスタッフ一同、10年前の新聞に載った全面広告のコピーを意識し続けたいと思います。