最近、BABOKがちょっとしたブームだ。Business Analysis Body of Knowledgeの略称だそうで、ビジネス分析のための知識体系だという。うーん、これではよく分からない。要件定義のさらに上流、いわゆる「超上流」、あるいは「源流」と呼ばれている領域をしっかりやるための知恵の集まりとでも言った方がよいかもしれない。で、超上流とは、経営課題を分析してシステム化計画を作るまでを指す。これなら、よく分かる。でも、肝心の経営課題って何?

 BABOKが流行るのは、これまでITベンダーも、ユーザー企業の情報システム部門も真の意味でソリューションを提供できていなかったことの裏返しである。経営課題を解決するのがソリューション。ソリューションとしての情報システムを提供できているのなら、何も今、BABOKなんぞを慌てて学ぶ必要はない。

 ピンと来る人もいると思うが、「経営課題を分析してシステム化計画を作る」というのは、まさにコンサルタントの仕事。つまり、ITベンダーも、システム部門も今、コンサル機能を身に付けようと躍起になっているわけだ。

 言わずもがなだが、経営課題が情報化の前提である。本来ならあり得ない話だが、これを忘れてシステム構築に突っ走ると大変なことになる。かつて、経営課題をろくに分析もせずベストプラクティスという“イデアの世界”を信じてERPを導入しようとし、挙句の果てに現状追認のカスタマイズ地獄に陥った苦い経験を持つITベンダーやシステム部門も多いことだろう。とにかく経営課題を明確に把握し、そこから出発しないと大変なことになる。

 では、誰が経営課題を知っているのだろうか。こう書くと「そりゃ、経営者でしょ」と笑われそうだ。しかし、本当にそうか。すごく有能な経営者なら、すべての経営課題を把握しているかもしれない。でも、多くの経営者にとって、すべての経営課題を明確に把握することは、とても困難なことだ。

 経営課題は、業態転換やM&Aから生産ラインや販売方法の問題など幅広い。その時々で、それぞれの重要度も変わる。そもそも経営課題として把握すべき現場の課題が、経営者の耳にまで届かないかもしれない。たとえ様々な問題点を把握しても、経営課題として明確な言葉にするのが難しいことも多々ある。

 だからITベンダーやシステム部門が、経営課題をアプリオリにシステム開発の起点としてしまうと、少しおかしなことになる。経営課題を明確にするという、さらなる上流のプロセスが必要になるのだ。もちろん、これは経営者自身の仕事である。だが、システム部門やITベンダーにはそれを支援する役割がある。まさにビジネス分析であり、コンサルティングである。

 そんなわけで、BABOK的なもの(何もBABOKでなければならないわけではないが)を学ぶのは遅きに失したとはいえ、とても良いことだ。ただ、もう一つ、気付いておくべきことは、明確になった経営課題を源流として流れ出す水路は、必ずしもシステムへと向かうわけではないことだ。つまり、ソリューションはITだけではない。ファイナンスの領域かもしれないし、人事・組織の領域かもしれない。あるいはM&Aがソリューションの場合もあり得る。

 つまり、ITベンダーやシステム部門が上流へ行けば行くほど、仕事の中身は大きく変わる。要件定義以降が自分たちの仕事と考えていた頃に比べると、大きな役割の変化、あるいはビジネスモデルの変革を伴う。BABOKを学ぶのはよいが、そんな覚悟がITベンダーやシステム部門にあるのだろうか。