「システムって、一定期間後にすべて作り直すものなんですか」。20年ほど前の話だが、あるコンピュータメーカーのベテラン営業担当者を取材していた時、思わずこう言ってしまった。システムエンジニア(SE)が苦労して作ったシステムの寿命が案外短いことに驚いたのである。

 「オンラインシステムがよれよれになる」。この表現を聞いたのも、その営業担当者からであった。企業の情報システムについて詳しくない、と正直に言ったところ、彼は次のように説明してくれた。

 「新しいオンラインシステムを開発して動かしますね。最初はぴかぴかです。でも、使っているうちに、一部を直したり、新しい機能を追加したりします。するとだんだん、プログラムが傷んできます。10年も使ったら、よれよれでもう直しようがなくなる。そのころには最新のコンピュータが発売されていますから、それを買ってもらって、プログラムをまた一から作るわけです」。

 「せっかく使ってきたプログラムなのに、一部でいいから再利用できないのですか」と聞いてみた。答えは「無理をすればできるが、かえって金がかかる。全部作り直したほうが安くつく」というものだった。

鶴は千年、オンラインは十年

 「本当のことを言えば、お客さんがシステムに求める要件は、10年くらいではそう大きく変わらないのです。ただし、よれよれのプログラムを直し続けるには限界があります。しかも最新コンピュータを使うとなると、DB/DC(データベース/データ通信、今でいうところのミドルウエア)が新しくなっていますから、古いプログラムはそのままでは動かないのです」。

 「どうせ全部作り直すのだから、今回のようにメーカーを替えてしまえ、となるわけですね」と相槌を打つと、その営業担当者は一瞬黙り込んだ。取材した目的は、失敗事例の事実確認だった。ある金融機関が勘定系システムを作り直す際、ホストコンピュータを従来とは別のメーカー製品に切り替えたところ、システム開発で苦労しているらしいという話である。

 「裏をとってこい」。先輩記者からこう言われ、長年その金融機関を担当してきたメーカー、つまり商談で負けたメーカーに取材に行った。取材を受けてくれた営業担当者は以前、その金融機関の勘定系システムを担当していたSEであった。メーカーの切り替えに話が及ぶと、SEらしい慎重な答えが返ってきた。

 「お客さんが決めたことですから、私からは何とも言いようがありません。一般論として、オンラインシステムの更新時期は商談のチャンスと言えます。他メーカーのコンピュータを使っているお客さんがオンラインの作り直しを考え出した頃、私も攻めに行きますから」。

 「システム切り替えに失敗。窓口で混乱」。その金融機関が勘定系システムの切り替えに失敗したという内容の新聞記事が出たのは、取材の数カ月後だった。商談に勝ったメーカーは、負けたメーカーが作ってきたプログラムをひもとき、新しいコンピュータ上でプログラムを開発したが、細かい点が分からなかったらしく、切り替え日にシステムが使えない事態に陥った。

 「新しいコンピュータを使おうとすると、今まで作ってきたプログラムは作り直しになる。プログラムを作るメーカーを切り替えるとトラブルが起きる。情報システムとはなんとも大変な世界だなあ」と思ったものである。