写真1●JR品川駅中央改札付近に設置された次世代飲料自動販売機(右端)
写真1●JR品川駅中央改札付近に設置された次世代飲料自動販売機(右端)
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写真2●リコメンドされた時の画面。「おすすめ」マークがポップアップする
写真2●リコメンドされた時の画面。「おすすめ」マークがポップアップする
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 自動販売機の前に立つと、その人に合った商品を「おすすめ」する。そんな自販機が登場した。JR東日本子会社のJR東日本ウォータービジネスが2010年8月10日から、全面タッチパネルのデジタルサイネージを搭載した「次世代自動販売機」をJR品川駅(東京都港区)に設置したものだ(関連記事)。

 次世代機は受け取り口の上部全面がデジタルサイネージになっている。飲料のボトルや缶は画像で表示され、自販機の前に人が立っていない時は動画広告などを流す。前に人が立つと、センサーが作動。その人に合った商品のボトルや缶の3~4種類に「おすすめ」という表示がポップアップする。ボトルや缶の画像にタッチし、お金を入れるか電子マネー「Suica(スイカ)」のICカードをタッチすると、飲料が受け取り口に出てくる。

 もの珍しさのために、品川駅中央改札脇にある次世代機の前では多くの人が足を止めていた。携帯電話のカメラで撮影している人もいる。注目度は抜群だ。

Suicaデータではなく、顔画像で年齢判別

 この新しい機械について、筆者が気になった点がいくつかある。自販機を設置したJR東日本ウォータービジネスの阿部健司・営業本部自動販売機事業部長兼SV統括室長に話を聞いてみた。

1.どういうロジックでリコメンドしているのか

 主に年代・性別・時間帯・気温の4要素を基にしている。阿部事業部長は「若い女性には紅茶飲料を、年配の男性には日本茶飲料を、子どもには乳酸菌飲料を薦めるなどしている」と説明する。

 次世代自販機の設置場所は現在は品川駅だけだが、順次増設し2年以内に約500台を展開する計画である。東京近辺の多くのJR駅で次世代機を見かけることになりそうだ。これに伴って場所の要素が加わる。「例えば、繁華街に近い有楽町駅や新橋駅では夜間にミネラルウォーターを薦めるなど、時間と場所に応じた仮説を立ててリコメンドできるようにしたい」という。

2.どうやって年代・性別を判定するのか

 年代・性別の判定にはオムロン製の属性判定センサーを採用している。顔の輪郭や目、まゆ毛、鼻、口などの位置関係、しわやたるみなどから、年代・性別を推定する。

 「デジタルサイネージの分野ではよく使われているセンサーで、これ自体は珍しい技術ではない。精度も安定している」(阿部事業部長)という。

3.なぜSuicaで登録している個人情報を使わないのか

 Suica定期券の券面には名前と年齢・性別が印刷されている。なぜこのデータを使わないのかという素朴な疑問がある。JR東日本ウォータービジネスは、既にSuica電子マネー対応の飲料自販機を約6000台設置している。Suica決済率は4割(売上高ベース)に達する。

 SuicaカードのICチップには、カード固有ID(IDiと呼ぶ)や残額、直近の購買履歴などのデータが入っているが、個人情報は入っていない。印刷されている年齢・性別は人間の目では読み取れても、自販機では判別できない。

 JR東日本が管理しているSuicaのID管理サーバーには当然個人情報も入っている。ただし阿部事業部長は「数千万件規模のSuicaのデータベースと自販機のデータベースをマッチングするのは、技術面、セキュリティー面の障壁が高い」と説明する。

 一方で、カード固有IDから、同じ商品を繰り返し買っているリピート購入状況は把握できる。従来型のSuica対応自販機から収集したデータを分析すると、上位10%の利用者による購入が全体の約5割を占める。次世代機では、この強固な固定客層に対して的確な商品を薦められるようにする方針だ。