企業向けのIT商談でも、iPhoneやAndroid端末などスマートフォンの人気が凄いらしい。iPadのようなタブレットPCも含めて、商談には欠かせないツールとなった。販促セミナーでもスマートフォンは欠かせないようで、某メーカー系の販売会社がiPhoneを使ったソリューションをアピールしたら大入り満員。その販社の幹部は「複雑な心境」とぼやき節だった。

 IT関連では、消費者向けでヒットした製品・サービスが企業向けでも受け入れられる。これはWindows95やiモード以来、ここ十数年の法則だ。なんせ、消費者向けで爆発的にヒットすると、企業向けのITとして導入する際の様々なハードルが下がる。規模の経済が働き安くなるだけでなく、教育・研修の手間やコストもほとんどかからない。従業員の誰もが使い方を知っていたり、知らなくても喜んで学んでくれたりする。だから、特に情報システムのフロントとなる端末やポータルに、どんどん大ヒット商品が使われるようになる。

 スマートフォンにも当然、この法則が有効に機能した。というか、今まで以上に作用したと言ってよい。企業が従業員にiPhoneやiPad、そしてAndroid端末を配布すると言えば、皆、諸手を挙げて大歓迎だ。そして、営業パーソンが客先で使えば、顧客との会話も弾む。小売りが店頭で活用すれば、顧客に「先進的」「おしゃれ」といったイメージまで売り込むことができる。今なら大量導入はマスコミでも話題になるため、各社とも我先にと導入に動く。

 「だけど、いわゆるPDAや携帯情報機器でしょ。これまでも同じようなものがありましたよね」とは、冒頭の販社の幹部。その通り。これまでもいろんな端末が登場しては消えていった。アップルも1990年代に、鳴り物入りで「Newton」と呼ぶ端末を製品化したこともある。それに対して、AT&Tがシリコンバレーのベンチャー企業と組んで「Personal Communicator」という端末を出して対抗した。日本のITベンダーも巻き込んだことで、当時は日本でも大変な話題となったが、結局両者とも短時間で消え去った。

 日本のITベンダーも、いくつか独自のPDAを開発したが、それこそあっという間に消えてしまった。唯一、シャープの「ザウルス」がそこそこ成功したが、結局は電子手帳の枠を超えられず、スマートフォンになりきれずに終わった。その意味では、iモードは本当に惜しいことをした。携帯電話とはいえ、今のスマートフォンで騒がれている機能を当初から持っていただけに、日本の中だけで進化しなければ、世界を取れていたかもしれない。まあ、これは別の話なので、このあたりで止めておく。

 さて、今のスマートフォンが、消え去ったPDAと呼ばれた先輩たちと違うのは、もちろんクラウドサービスと一体化していることだ。こうしたビジネスモデルを創り上げたアップルや、今の事態を想定してAndroidを無料でばら撒いたグーグルに対しては「お見事」と言うほかはないが、クラウドサービスとスマートフォンなどの端末で提供される情報環境は、「ユビキタス社会」として以前から予言されていたものだ。多くのITベンダーがユビキタス=クラウドのキープレイヤーを目指したが失敗し、アップルやグーグルなど一部のベンダーのみが成功したわけだ。

 では、失敗と成功を分けたものは何か。様々な因子があり一言では難しいが、ゼロから創り上げようとしたものは失敗し、他者の成果を上手く活用したものは成功した、とだけは言える。他者の成果の代表例は、もちろんインターネット。グーグルもアップルもインターネットでの他者の成果を、借景として活用したり、内部に取り込んで活用したりすることで大きな成功を納めてきた。インターネット、そしてクラウドの時代は“完全なオリジナル”は失敗の憂き目に遭う。

 ということで、冒頭の販社をはじめ日本のITベンダーは、「複雑な心境」などとぼやく必要はない。他者の成果を活用したほうが勝ちだ。人気のある他社製のスマートフォンもどんどん活用して、顧客にソリューションを提案していこう。もちろん他者の成果を活用すると言っても、プラスアルファとなるオリジナリティが必要なことは言うまでもないが。