「“つぶやき”といわれる140文字までの短文を投稿するサービス」という説明が要らないほど、Twitterが普及してきた。個人はもちろん、企業での活用が増えている。IMJモバイル(東京都目黒区)の調査結果によると、企業のキャンペーン担当者の16%が既にTwitterを「活用している」と回答、「活用していないが興味がある」との回答は62%に上った。調査は2010年5月に実施、6月末に発表されたものだ。企業にとってTwitterは、無視できないマーケティングメディアの1つになっている。

 Twitterの利用方法などを掲載しているツイッター公式ナビゲーターの「Twinavi(ついなび)」には、約4700の企業アカウントが登録されている。大企業から個人商店、官公庁、メディアなど、企業アカウントといってもその種類は様々だ。企業のTwitter活用が浸透してきた証拠と考えられる一方で、マーケティングの観点からTwitterはどのように利用するのが効果的なのだろうか、と疑問に思った。

 Twinaviで上位の企業アカウントを観察・分析すると、幾つか発見があった。1つは、Twitterのフォロワー数は一般的な企業の知名度とリンクしていないことだ。

 ついなびの企業アカウントのカテゴリーでフォロワー数1位は日本気象協会が提供する天気総合ポータルサイトのアカウント「@tenkijp」だ。50万近いフォロワーがいる。20位以内には、個人の経営コンサルタントや地方のビジネスホテル、焼き鳥屋なども交じっている。20位の新江ノ島水族館「@enosui_com」は約4万6000フォロワーだ。

 20位以下に目を向けるとTwitterと親和性が高そうな楽天の楽天市場「@RakutenJP」は52位、日産自動車の公式アカウント「@NISSAN」は190位、といった具合だ。一般的な知名度とTwitterでのフォロワー数に正の相関関係は無さそうだ。

Twitterでは“軟式”のアカウントが好まれる

 もう1つの発見は、メディアなどの情報提供系のサイト以外では、ゆるいつぶやきのアカウントに人気があるということだ。企業アカウントと一口にいっても、かなりフランクに消費者に接しているアカウント、新製品や新サービスといったニュースリリースの情報をまじめに発信しているアカウントなど、つぶやきの内容はバラバラである。

 厳密に統計を取ったわけではないが、まじめにプレスリリースを配信するアカウントよりも、ゆるく消費者と接する、いわゆる“軟式”のアカウントのほうがフォロワー数が多いようだ。消費者と頻繁にやりとりするアカウントも、多くのフォロワーを獲得しているようにみえる。

 とはいえ、フォロワー数を増やすためにゆるいつぶやきばかりをTwitterに投稿しても企業アカウントとしての役割を果たしたことにはならない。「企業がTwitterを始めるからには意図や目標を置くべき」だからだ。こう指摘するのは、「@ywakabayashi」というアカウント名で4000人以上のフォロワーを持つ京都大学大学院経営管理研究部の若林靖永教授だ。

 マーケティングを専門とする若林教授は、「企業の宣伝活動の中でTwitterを特別視すると失敗する」と話す。Twitterが普及する前からブログ、さらには電話など消費者とコミュニケーションするメディアはあった。「これまでどのような宣伝活動をしてきたのかを踏まえて、ツイートの内容を考えるべきだ。社内の雰囲気を伝えられるのがTwitterのメリットであり、難しい部分でもある」(若林教授)という。

担当者が「楽しい」と感じることが重要

 若林教授のこの話は、実際にTwitterを活用している企業に話を聞いた際、「なるほど」と検証できた。約1万5000のフォロワーを持つ「@TokyuHands」など複数のアカウントを持ち、Twitter活用の先進企業として知られる東急ハンズ通販事業部/IT企画部の長谷川秀樹部長は、「Twitter上で店頭と同様の接客を提供することを心がけている」と話す。特にツイート内容に制限を設けてはいないが、「消費者に対してうそをつかない、誠実であることを条件にしている」という。

 「日経情報ストラテジー」10月号(8月29日発売)の特集では「顧客のインサイトをつかめ!」と題して、Twitterのほか、UstreamやiPhone向けアプリケーションなどを活用して効果を上げている企業を紹介している。京都大学の若林教授や、東急ハンズの長谷川部長に、Twitter活用の話を聞いたのもこの特集の取材の一環だった。

 実は若林教授に取材するきっかけはTwitterだった。記者がTwitterで「マーケティングの消費者行動論と行動経済学は何が違うのか」といった趣旨を何気なくつぶやいた際に、当時はフォローしていなかった若林教授から返信があった。取材の際に尋ねたら、若林教授は当時「マーケティング」など興味がある用語で検索して、気になるツイートに返信をしていたそうだ。このやりとりから記者はTwitterで若林教授をフォローするようになり、興味深いツイートが多かった若林教授に話を聞いてみたいと考えるようになった。

 最近、「Twitter疲れ」という言葉を目にするようになった。一方で今回、取材で会った企業アカウントのTwitter担当者は、Twitterについて「楽しい」と話していたのが印象的だった。若林教授が指摘するように、担当者が楽しさを感じずに無理をしていると、その雰囲気がフォロワーに伝わってしまう。企業が効果的にTwitterを利用するには、担当者がTwitterを楽しめるかどうかがカギになりそうだ。