私は、コンピュータが好きだから、IT業界に就職しました。なぜコンピュータを好きになったのかというと、仕組みが分かる楽しさと、プログラムを作って動かす楽しさを知ったからです。どうやってその楽しさを知ったのかというと、素晴らしい解説書との出会いがあったからです。今回は、私が学生時代~若手ITエンジニア時代に読んだ懐かしの名著の数々を紹介します。

はじめて読むマシン語

 これは、8ビットパソコン時代の本です。当時の私は、BASICというプログラミング言語を使って、ゲームやユーティリティを作って遊んでいました。「BASICで作ったプログラムは遅いが、マシン語で作ったプログラムは速い」ということを知り、マシン語にもチャレンジしようとしました。ところが、何冊か解説書を買って読んではみたものの、どれもまったく理解できません。

 途方に暮れていたときに、たまたま雑誌の書評で「はじめて読むマシン語」を知りました。「他の本ではわからなかったが、この本でマシン語がわかった」という書評です。すぐに入手して読んでみたところ、本当にわかりやすい本でした。BASICでモニタプログラムを作って、そこからマシン語を入力して実行するという実習形式の内容が、私にピッタリ合っていたのです。

 もしも、この本に出会っていなかったら、私はずっとマシン語にコンプレックスを感じたままだったでしょう。わからなくて、つまらなくなり、きっとコンピュータから離れてしまったでしょう。IT業界に就職することもなかったでしょう。現在、こうしてIT業界で働いていられるのは、この本のおかげです。

はじめて読むマシン語
【書名】はじめて読むマシン語
【著者】村瀬康治
【発行】アスキー

PC-9800シリーズ テクニカルデータブック

 大学時代の卒業研究で、私は、NC工作機械と連携するプログラムを作るチームに所属していました。パソコンは、8ビットから16ビット時代となり、NECのPC-9800シリーズが大ベストセラーで「国民機」とさえ呼ばれていました。当時の私は、MS-DOSというOS上で、C言語を使ってプログラミングしていました。

 MS-DOSは、CUI(Character-based User Interface)のOSなので、グラフィックスの描画や印刷のシステムコールがありません。それらを行いたい場合は、コンピュータのBIOSのサービルスーチンを使うか、ハードウエアを直接操作しなければなりません。その際に、重宝だったのが「PC-9800シリーズ テクニカルデータブック」です。

 この本の中では、PC-9800シリーズで使われているICの種類、メモリー空間とI/O空間の割り当て、BIOSの使い方などが、「どうしてここまで分かるの?」と聞きたくなるほど、詳しく書かれています。この本を参考にして作ったグラフィックスのプログラムが動作したときの感動は、今でも忘れられません。この本は、ハードウエアを直接操作するプログラムを作る楽しさ、そしてコンピュータの仕組みを知る楽しさを教えてくれました。

PC-9800シリーズ テクニカルデータブック
【書名】PC-9800シリーズ テクニカルデータブック
【著者】アスキー出版局テクライト
【発行】アスキー

標準MS-DOSハンドブック

 私は、MS-DOSを通して、はじめてOSというものに触れました。当時のパソコンユーザーにはOSの役割が理解しにくかったようで、「MS-DOSとは何か」や「MS-DOSってなんどすか」といったタイトルの本がありました。私は、数多くのMS-DOS解説書の中から、最もページ数が多い本を買いました。「標準MS-DOSハンドブック」です。

 発行元のアスキーが、マイクロソフトと密接に関係した出版社だったからでしょう。この本の内容は、期待通りに詳細かつ明快なものでした。MS-DOSを構成する3つのプログラムファイルであるMSDOS.SYS、IO.SYS、COMMAND.COM(懐かしい!)の解説と、システムコールの一覧から構成されています。システムコールは、プログラムとOSとをつなぐ窓口です。私は、自分で作ったプログラムからINT 21H(これまた懐かしい!)というシステムコールを使ってみました。MS-DOSは、それに答えて動作しました。私は、まるでOSと対話したような気持ちになりました。とっても、とっても、嬉しい気持ちになりました。

標準MS-DOSハンドブック
【書名】標準MS-DOSハンドブック
【著者】アスキー出版局
【発行】アスキー