ファストフードやファストファッションという言葉はすっかり定着した。そうした企業の商品に「安かろう悪かろう」というイメージを持つ人がいるかもしれないが、筆者は市場のニーズを的確にとらえたものと見ており、「ファスト(Fast)」という言葉にマイナスイメージはあまりない。日本マクドナルドやユニクロを見れば分かるように、ファストを極めた企業は業界のリーダーになっている。

 では、ITの市場はどうか。ここでいう「Fast」は処理性能のことではなく、ユーザーニーズに応えるスピード、言い換えれば、要求を受けてからシステムとして実現するまでの時間である。

 IT市場のFastに対するニーズは、他の市場に比べても強いと思う。ビジネス環境の変化に応じてシステムニーズが生まれることが多いので、少しでも早くそのニーズに応えた情報システムを稼働させたい。ユーザーはそう思っているはずだ。

 こうしたニーズに、ITの現場は長年取り組んできた。例えば、アジャイル開発やフレームワークをベースとした開発はそうした動きの一つといえる。

 ただ、ここに来てFastのニーズを一段と加速させる動きがある。クラウドコンピューティングである。クラウドの一つの形態であるSaaSは、ソフトウエアをサービスとして提供するもの。そこに「作る」という発想はなく、あるのは「使う」ということだけ。作らないので、ユーザーを待たせることはない。

 クラウドコンピューティングの登場により、ユーザーはITに対してFastのニーズをより強くしてくる可能性がある。これまではシステムに対する要求をまとめてから、システムを開発するために半年や1年といった期間を設けていたが、クラウドのサービスに触れたことで「もっと早く提供してほしい」というニーズが強くなる、ということだ。

 「Fast IT」。これは、これからのユーザーニーズを表す言葉である。同時に、Fastを極めた企業が業界のリーダーになっているように、Fast ITは現場の目指すべきものだと思う。

XDevのテーマは「Fast IT」

 システム開発者ための祭典「XDev」では、「めざせ!Fast IT ~クラウド時代のニーズをつかむ~」をテーマに掲げている。多くのセッションがあるが、中でも注目したいのは、ITアーキテクトとして著名な鈴木雄介氏による講演である。タイトルは『早い安い新しい「Fast IT」を使いこなせ! クラウドを楽しめるエンジニアの条件』(関連記事)。

 クラウドによってもたらされるFastのニーズに応える一つの方法は、クラウドを使いこなすことである。クラウドコンピューティングでは先述したSaaSのほか、システム基盤をサービスとして提供するPaaSやIaaSがある。XDevではそうしたサービスに関する講演がある。マイクロソフトの担当者による「Windows Azure」の講演と、Amazon Data Services Japanの担当者による「Amazon Web Services」の講演である。

 また、自社にクラウドの良さを取り込む動きもある。プライベートクラウドと呼ばれるものである。その先頭を走るのは仮想化に取り組んできた企業で、そうした企業の担当者によるパネルディスカッション(テーマは「仮想化インフラ、次の一手」)も予定している。

 そのほか、品質/テスト、RIA、COBOL、開発、マネジメントをテーマにしたセッションが多数ある。ご興味のある方は、ぜひ受講していただきたい。