スマートフォンがブレイクしている。iPhone 4やXperiaなど使い勝手に優れた機種が続々と登場し、コンシューマ市場の主役に躍り出てきているのは、誰もが認めるところだろう。

 法人ユーザーのスマートフォンに対する関心も、コンシューマ市場でのブレイクに引っ張られる形で着実に高まりつつある。企業ユーザーが個人としてスマートフォンを購入し、それをきっかけに検討を始めるケースも多いという。スマートフォンを大量導入する企業のニュースも増えてきた。

 このような動きを探るべく、日経コミュニケーションの8月号では、スマートフォンを先行導入している企業ユーザーを徹底取材した。その結果は本誌記事にまとめたのでぜひ参照していただきたいが、ここでは本誌記事で大きく取り上げなかったもう一つの気になる動きについて触れてみたい。スマートフォンとクラウドの親密な関係についてだ。

グループウエアのクラウド移行に合わせてスマートフォンを導入

 これまでの企業におけるスマートフォンの代表的な導入パターンと言えば、スマートフォンを使って外出先から社内システムにアクセスできるようにソリューションとして作り込む形だった。端末上で専用のクライアントアプリケーションを開発し、VPN経由で社内のサーバーにアクセスするといった形だ。スマートフォンは端末上で自在にアプリケーションを開発できるメリットがあるため、このようなソリューションを作り込みやすい。さらにWindows MobileのようなOSは帳票出力など周辺機器との接続もサポートしている。業務用の専用端末をスマートフォンによるソリューションで置き換えられるような形もできる。

 もちろん現在でもこのような利用形態は増えている。例えば、NTTドコモのバーコードリーダー付きWindows Mobile端末「F-05B」を2010年10月からセールスドライバー向けに約2万4000台配布予定の佐川急便や、KDDIの新Windows Mobile端末「E31T」を約5万台導入予定のヤマト運輸は、このようなパターンに当てはまる。

 ただここに来て、上記のようなパターンとは違う形でのスマートフォンの導入が目立ってきた。社内システムをクラウドに預け、それに併せてクラウドと親和性の高いスマートフォンを導入するという形だ。

 例えば旅行代理店のトップツアーは、2010年4月にNTTドコモのAndroid端末「HT-03A」を約1000台導入した。同社がAndroid端末「HT-03A」を選んだ理由は、社内のグループウエアを米グーグルのクラウドサービス「Google Apps」に変更したからだ。Google Appsとの親和性の高さからAndroid端末を選択したわけだ。

 同社はもともと、オフィスに戻らなくても効率的に営業活動できるように、社外でメールや業務データを見られるよう業務システムの見直しを進めていた。既存の社内システムにどのようにアクセスするのかというこれまでのスマートフォンのアプローチとは対照的に、社内システムを外部のクラウドに預けるというアプローチからスタートしたわけだ。

 同社がクラウド上に預けているデータは、メールやスケジューラやドキュメントの共有などの機能に限っている。これらだけでもクラウドに預けることで、これまでいちいち社内に戻らなければ確認できなかったメールやスケジュールを外出先からでも確認できる環境が整う形になる。しかもAndroid端末には、Googleのクラウドを利用するためのクライアント機能が備わっているため、アカウントを設定するだけで利用可能になる。独自アプリケーションの開発は必要ない。

 トップツアーと同様に、中古車販売大手のガリバーインターナショナルも、クラウドの導入と共に、顧客宅を訪問する営業マン用の情報端末としてのiPadの大量導入を検討している。

 同社には「ドルフィネット」という中古車販売システムがある。クルマの商品画像や情報を一覧表示できる社内システムだ。これをiPadから閲覧できるようにする計画である。同社は“持たない経営”を標榜し、クラウドの利用にも積極的だ。既にメールやスケジューラーとしてグーグルの「Google Apps」を導入済みである。さらに大小100近くある社内システムも、切り出せるものは順次、クラウドに切り出していきたいという。「iPadのような端末はクラウドと親和性が高く、社内では“クラウドデバイス”と呼んでいる。クラウドと連携させることで、いつでもどこでもアクセスしやすい業務システムを作りやすくなる」と、同社経営企画室の椛田泰行氏は話す。

 スマートフォンと親和性の高いクラウドサービスはグーグルのサービスばかりではない。例えば米セールスフォースドットコムの「Salesforce.com」のように、iPhoneやAndroid向けクライアントアプリケーションを無償で配布するベンダーも出てきた。クラウドの導入に合わせてアプリケーションを端末側でインストールすれば、特段の追加の開発が必要なく利用環境ができてしまうのだ。

 もちろんクラウドとスマートフォンの利用の両面で、セキュリティに対する検討は必要だろう。どのようなデータをクラウドに預け、外部から利用できるようにするのか。さらには端末を紛失した時の、遠隔消去(リモートワイプ)の環境の準備を考える必要がある。

 ただこの懸念さえクリアできれば、導入の敷居が低いこともあって、企業ユーザーには魅力的な選択肢だろう。このようなクラウドとスマートフォンの組み合わせは新しい企業システムの形として、今後ますます注目をあびていきそうだ。