「障害者雇用への関心が高まっている証である」。中堅ITサービス会社、アイエスエフネット(以下、ISFネット)の渡邉幸義社長は、ITサービス関連業務に障害者を採用する子会社、アイエスエフネットハーモニーの事務所見学者が2010年中に延べ2000人に達する勢いで増え続けていることを嬉しそうに語る。

 2000年1月設立のISFネットは、ネットワーク構築や運用・保守などに携わる技術者が不足していることに着目し、未経験者を一人前の技術者に育て、供給するビジネスに参入した。その一環からニート/フリーターや障害者、ワーキングプア、引きこもり、シニアといった社会的弱者を積極的に採用。国内18カ所に加えて、韓国や中国などアジアに拠点を設け、社員約1650人、売り上げ約80億円の規模に成長した。

経常利益率16%の黒字を達成

 この中で、ITサービス関連事業に障害者を採用する目的で2008年1月に設立したのがISFネットハーモニーである。すでに帳票作成などに従事する社員は17人(2010年4月時点)になり、2009年度は経常利益率16%の黒字だったという。「業界関係者から“ミラクル”と言われた」(渡邉社長)という。

 ミラクルを起こした理由の1つは、3人チーム編成にある。障害の異なる3人(身体障害者、知的障害者、精神障害者)で混合チームを組み、各人がそれぞれの強みを生かすようにした。そんな現場を見学しくれた人がファンになり、好循環が生まれたこともあって、月1回ペースで職場見学会を開催している。

 もちろん、採用にあたっての試練はあった。誰も面接を受けにこなかったことだ。「企業が求めるような人はすでに働いており、採用しようと思っても誰も応募しない」(ISFネットハーモニー)のが現実だった。障害者の両親からは、「経営者が障害者採用に理解を示しているのか」「つぶれるような会社なのではないか」「不景気になると、最初に障害者を切るのではないか」といった心配の声も聞こえてきた。「単純作業なら、いずれは辞めてしまう」と仕事内容を懸念する両親もいたという。

働けるのに、実際の従事者は一握り

 ISFネットハーモニーによると、障害者は日本の人口の約5%、約700万人になる。うち働ける人は約300万人と言われているが、実際の従事者は35万人程度だという。初期教育の困難さ、コミュニケーションが取れない、可能な業務が分からない、などの理由から採用をためらう企業もあるだろう。

 それでも渡邉社長は「企業が雇用に一歩踏み出せば、その何割かが働けるはず」と確信し、各人のスキルに合わせて業務を用意するとともに、社員のスキル向上に取り組んでいる。自宅にいたり、施設にいたりする障害者らに働く場を用意すれば、彼ら彼女らには「やりがい」と「求められる喜び」が生まれる。しかも、納税者になる。

 採用する企業側にもメリットがある。社員は、障害者が働いているのを当たり前と思うようになる。偏見がなくなり、「毎日、一緒にいれば、やがてチームワークで仕事ができるようになる」(渡邉社長)。社員は「表裏がなく、物事をはっきり言ってくる」ため、渡邉社長が経営者としての考えを改めることもあるという。

 給与をきちんと支払い、事業を黒字化すれば、継続的な発展も遂げられる。渡邉社長は「2020年までに1000人を雇用し、給与を今の月額13万円から月額25万円を出せるようしたい」と話す。