スカパーJSATが提供する東経124・128度CS放送「スカパー!」の減少傾向が続いている。2010年7月末時点の加入者数は238万2435件で、前月に比べて1万9967件減った。2006年7月以来、スカパー!の加入者数は49カ月連続で前月の実績を下回っている。一方、東経110度CS放送「スカパー!e2」は122万2663件で、前月比1万1055件増だった。

 代表取締役社長の秋山政徳氏は、「2010年3月期 株主通信」の中で、「スカパー!の加入者数の規模を維持するとともに、スカパー!e2などの加入者数の拡大を推進する」と宣言している。以前に比べ減少しているとはいえ、200万件超の規模を持つスカパー!の立て直しを重要視している姿勢がうかがえる。秋山氏は、2010年5月13日の2009年度通期決算説明会では、「当社の収益の柱はスカパー!だが、加入者が減っている。この大黒柱を早く立て直すことが重要」と述べた。

 スカパー!の加入者数減に歯止めをかけるうえで、スカパーJSATがポイントにしたいと考えているサービスが、東経124・128度CSを利用したHDTV(ハイビジョン)放送「スカパー!HD」である。スカパーJSATは、HDTV放送のチャンネル数を現行の80チャンネル程度から、2012年には100チャンネルにまで増やすことを計画している。より多くのハイビジョン放送の専門チャンネルを視聴できる点をアピールし、スカパー!の加入者数の規模を維持することを目指す。

ハイビジョン放送だけのベーシックパックを提案

 こうした中でスカパーJSATは、番組供給事業者(専門チャンネルを運営する事業者。以下、番供)に対して、「HDTV(ハイビジョン)放送のチャンネルだけのベーシックパックを作りたい」と打診した。

 スカパーJSATは、子会社であるスカパー・ブロードキャスティングにスカパー!の放送主体を一本化する取り組みを推進している。スカパー!のより一層の普及に向けて、より主体的にサービスの中身に関与し、責任を持ちたいという意思表示である。現行は、スカパー!HDでは既にスカパー・ブロードキャスティングが番供側からチャンネルの供給を受けて、委託放送事業者として多チャンネル放送を提供している。映像の符号化方式は「H.264」である。一方のSDTV(標準画質テレビ)放送のスカパー!SDは、番供側が委託放送事業者となり、自らがトランスポンダを借りて放送を展開している。映像の符号化方式は「MPEG-2」である。

 スカパー!HD用チューナーは、H.264とMPEG-2の両方に対応する。一方、スカパー!SD用チューナーはMPEG-2にしか対応しない。このため放送主体をスカパー・ブロードキャスティングへ一本化するに当たり、スカパー!SD用チューナーのスカパー!HD用チューナーへの置き換えが課題となる。ハイビジョン放送だけのベーシックパックの投入により、スカパー!SD加入者のスカパー!HDへの移行を促進できれば、スカパー!HDチューナーの普及台数を増やせる。

 スカパーJSATは、ハイビジョン放送のベーシックパック投入の提案に合わせて、MPEG-2方式によるスカパー!SDを終了し、映像符号化方式をH.264に一本化する構想を番供側に示した。放送主体をスカパー・ブロードキャスティングに一本化する意向も改めて伝えた。

 ところがこうしたスカパーJSATの提案に、多くの番供は賛同しなかった。その理由の一つは、映像符号化方式のH.264への一本化の時期が明確に示されなかったためである。既にHDTV放送をスタートした事業者にとっては、MPEG-2の放送をいつまで続けるのか、という不安がある。

 もう一つは、まだHDTV放送化していない事業者の不満である。HD基本パックの投入が、既存パッケージの加入者数に影響を与えることを懸念する意見が出ている。HDTV放送を先行してスタートできたのは、限られたチャンネルだけであり、スカパーJSATの募集に応募しても落選したチャンネルも多い。しかも、いまSDTVのみの放送を展開している事業者の中には経営基盤が弱いところもある。

スカパー!e2の成長性に関する意見の相違が背景に

 ハイビジョン放送のみのベーシックパックの提案が賛同を受けなかった理由の一つには、スカパー!e2の販促との兼ね合いについての意見が、業界の中でも分かれていることがある。一部の番供の中には、「東経110度CS放送の『スカパー!e2』は、多くのデジタルテレビに3波共用チューナーが内蔵されており、今後の成長性がある」として、スカパー!e2の販促強化を望む声がある。こうした番供にとって、スカパー!HDで新ベーシックパックを立ち上げて、スカパーJSATがそこに販促費を投入することは限りある経営資源の効率的な運用とは言えず、歓迎すべき事態ではない。

 ある番供は、「スカパー!e2の加入者数がどこまで増えるかについての意見が分かれていることがある」と指摘する。例えば、スカパー!e2の加入者数が遠からず頭打ちになると考えるのであれば、スカパー!の立て直しに向けた対策に経営資源を集中することが望ましい。反対に、スカパー!e2の加入者の増加傾向がこれからも続き、将来的にはスカパー!の加入者数を上回るとみるのであれば、スカパー!e2の販促に注力すべきということになる。

 スカパー!の加入者数減を食い止めるために、どんな対策を取るべきか――。スカパー!とスカパー!e2の販促に経営資源をどの程度投入すべきか――。スカパーJSATの関係者は2010年7月の経営者連絡会で、番組供給事業者に対し、2010年秋に今後の商品戦略についての提案を行う意向を伝えた。スカパー!やスカパー!e2の加入者数の増減は、番供の収益を大きく左右する。スカパーJSATの新たな提案は、多くの番供の注目を集めることになりそうだ。