いま、意外と盛り上がっているのはセキュリティ商談。そんな話を複数のITベンダーの人から聞いた。正直、最初に話を聞いたときには、どんな案件なのか、全くイメージできなかった。商談の相手は製造業、しかも情報システム部門ではなく、ユーザー部門だという。うーん、分からない。でも話を聞いて合点がいった。盛り上がるセキュリティ商談も、季節の大きな変わり目を象徴するような話だったのだ。

 ユーザー企業は今、IT投資を復活させつつある。だが投資候補は、大不況で凍結していた各種アプリケーション、そしてITコストの削減につながる仮想化・プライベートクラウドなどのITインフラ案件といったところだろう。セキュリティ関係は、大方のユーザー企業が既にそれなりの投資をしており、必要最小限の案件を別にすれば、今この時点でセキュリティ商談があちらこちらに転がっているとは思えない。私の認識はそんなところだった。

 では、なぜ今、セキュリティなのか。詳しく聞いてみると、極めて分かりやすい話だった。要は「中国」である。巨大マーケットに大化けした中国では、日本の多くの製造業が生産拠点、そして最近では研究・開発拠点を膨らませ続けている。で、現地の研究・開発現場や生産現場では、ひしめくライバル企業に設計図など機密情報・重要情報が漏洩しないか、強い懸念を抱いているとのことだ。もちろん、情報漏洩対策やセキュリティ対策は打っているが、それで十分か確信が持てないのだという。

 それで、情報システム部門に問い合わせてもシャープな回答が得られないので、ITベンダーのセキュリティ提案に飛びついてくる。もちろん、その提案がソリューションになっているのが前提だが、ITベンダーの営業が研究・開発部門などを丁寧に回れば、かなりの確率で大きな案件に発展する可能性が高いという。

 なんせ、仮にユーザー企業のIT予算が少なくても、情報漏洩対策、セキュリティ対策のための予算は、研究・開発部門などがふんだんに持っている。もちろん、ITインフラにかかわる話なので、情報システム部門を無視するわけにはいかないが、基本は研究・開発部門などユーザー部門の主導で商談が進む。生き馬の目を抜く中国市場で戦っているユーザー企業のリアリティからすると当然なのかもしれないが、セキュリティ商談のようなインフラ系の案件まで、ユーザー部門主導というのには、ちょっと驚いた。

 そう言えば、PDFの閲覧・印刷制限などの機能を提供するSaaSも、製造業の中国生産拠点向けの引き合いが数多くあるそうだ。中国の協力会社に図面など提供する際に、コピー制限や閲覧期間の限定などの情報漏洩対策をかけておきたいからだという。

 ユーザー企業、とりわけ製造業にとって、戦いの主戦場は国内から海外、特に中国に大きくシフトしつつある。それに伴って、IT商談の主戦場も海外に移り行く気配が濃厚だ。それに対して、ITベンダーにとって馴染みのお客さんである情報システム部門は、ドメスティックなままのケースが多い。ITベンダーもうかうかしていると、商機が遠くなりかねない。