日経コンピュータの7月21日号で「安くて安心Linux」と題した特集記事を執筆した。「今さらLinuxの特集?」と思われる読者も多いかもしれない。だが今年から来年にかけて、銀行の勘定系システムや取引所の株式売買システムなど、これまで国内では実績がなかった分野でLinuxを採用したシステムが続々稼働する。

 これらの企業はなぜ今になってLinuxを「使える」と判断したのだろうか。取材を通して確信したのは、「どんな企業でも、どんなシステムにもLinuxが選択肢に入る時代が来た」ということ。それをお伝えできれば、という思いで記事を執筆した。

 記事の中では、これまでLinuxの弱点とされることが多かった、信頼性や保守サポートの面についても詳しく書いた。加えて、「今年登場したx86サーバーの新製品がLinux導入を後押しする」という点に触れたのだが、誌面の都合上、詳しく説明できなかった。そこで本コラムでは、新しいx86サーバーについて書いてみたい。

「どんな規模のデータベースも動かせる」

 新しいx86サーバーとは、今年3月にインテルが提供を始めた8コアのプロセッサ「Xeon 7500番台」を搭載したサーバーのことだ。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)がこの7月にXeon 7500番台搭載サーバーを発表したことで、主要サーバーメーカーの製品が出そろった。

 コア数の増加や信頼性の向上など様々な機能強化が図られたXeon 7500番台だが、最も特徴的なのは、最大8個のプロセッサ(64コア)がメモリー空間を共有してトランザクションを処理するSMP(対称型マルチプロセッシング)構成をとれる点だ。インテルのチップセットと組み合わせることで実現する。

 SMPの仕組みや特徴は、MPP(超並列プロセッシング)と比較すると分かりやすい。MPPはそれぞれのプロセッサが独自にメモリーを持っており、メモリー空間の共有はしない。つまりソフトウエアから見るとSMPは単一のシステムに、MPPは複数の独立したシステムになる。処理性能を向上させる場合は、SMPはスケールアップ、MPPはスケールアウトになる。

 SMPとMPPは、扱うデータが複製や分散に向くかという観点で使い分ける。例えばMPPは、大量のデータを分散して保存し、並列で検索・集計するデータウエアハウスに使うケースが多い。一方、企業で使用する基幹データベースの場合、一つのテーブルにあるデータを複数のサーバー(ノード)に分散して保存するとノード間の通信オーバーヘッドが生じるため、データを単一のシステムに保存するSMPが向く、といった具合だ。

 これら二つの処理方式のうち、複数のサーバーを並べて処理するMPPのシステムではすでにx86サーバーの利用が主流だ。しかし、企業の大規模なデータベース用のサーバー機には、高性能なプロセッサを使用でき、処理能力を高めやすいという理由で、UNIXサーバーなどのハイエンドサーバーが多く用いられている。

 この流れを変える可能性があるのがXeon 7500番台搭載サーバーだ。あるサーバーメーカーの担当者は「Xeon 7500番台を8個接続した場合、国内のデータベースであれば、ほぼどんなものでも動かせるだけの処理能力がある」と話す。

メーカーは独自チップセットの開発を止めた

 Xeon 7500番台は、サーバーメーカーが独自にチップセットを開発すれば、最大256プロセッサのSMPを構築できる仕様になっている。だが、今のところどの大手メーカーも独自のチップセットを開発していない。各社とも「8個のプロセッサ、64コアで十分」と考えているからだ。

 一つ前のシリーズに当たるXeon 7400番台のときは事情が異なっていた。大規模なデータベースなど、「ハイエンド用途にx86サーバーを使う場合のプロセッサの処理能力不足を補う」ことを主な理由に、NECと日本IBMが独自のチップセットを搭載した製品を提供していたのだ。

 Xeon 7400番台は6コアで、インテルの提供するチップセットを使う場合は最大4プロセッサのSMPが可能だった。NECと日本IBMは独自のチップセットを作り、最大16個のプロセッサを搭載できるモデルを開発。日本IBMはx86サーバーのプロセッサ搭載数を増やす独自技術を「Enterprise X-Architecture」と呼んでおり、Xeon 7400番台搭載サーバーの発表時点で第4世代目の技術を開発するなど、力を注いでいた。