経営学者・社会学者のピーター・ドラッカー氏は著書「マネジメント」の中で、マネジメントには三つの役割があると述べている。その一つが「社会の問題についての貢献」である。いわく「マネジメントには自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある」。

 ベストセラー「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の主人公みなみは、野球部がどう社会の問題に貢献したらいいのかについて悩み、その答えを見いだした。自分が取り組んできた野球部のマネジメントの手法を陸上部をはじめとするほかの部にレクチャーしたり、学校の問題児を野球部のマネージャーにスカウトすることでやりがいを与えたりしたのである。

 では、ITベンダーや情報システム部門は、どんな社会貢献が考えられるだろうか。これは難しい問いである。

 普通に考えれば「役に立つ情報システムを開発・運用することで、よりよい社会の発展に貢献する」ということになるだろう。もちろんこれはこれで大事な貢献である。

 だが、もっと違う視点での貢献があるのではないか---。9月に開催する弊社主催のイベント「XDev2010」で、講師の方と打ち合わせをしていて、こう感じた。

IT業界はプロジェクトマネジメントの先進業界

 筆者が話をしたのは、アイ・ティ・イノベーションの能登原伸二氏である。能登原氏は情報システム開発についてのプロジェクトマネジメントの第一人者で、著書に「プロジェクトマネジメント現場マニュアル」がある。XDev2010では、プロマネ関連のセッションに講師として登壇していただく予定だ。

 能登原氏は面白い話を聞かせてくれた。「病院でコンサルティングをしてくれないかという依頼が来たんです」というのだ。

 大病院では、内科や外科など複数の医者が一人の患者を治療する「チーム医療」が広まっている。科をまたいだ複数の医者が治療の方針を話し合う必要などがあるため、チーム医療には複雑なコミュニケーションが求められる。円滑に作業を進めるには高度なマネジメントスキルが必要になるわけだ。

 しかし、多くの医者は当然、医療の専門家ではあるが、マネジメントの専門教育を必ずしも受けているわけではない。そこで、能登原氏のもとに話が持ち込まれたというのである。

 ほかにも、大学の論文をどうすれば仕上げられるかを生徒にレクチャーしてほしいという依頼もあったそうだ。論文を締切に間に合わせるには、いつ、どのような作業をする必要があるかを洗い出して、計画と実際のズレを監視しなければならない。「これはプロマネの進ちょく管理そのものですよね」と能登原氏は話す。

 IT業界におけるプロジェクトマネジメントのスペシャリストである能登原氏に声が掛かるのは、よく考えると当然とも言える。あまり意識されていないが、プロジェクトマネジメントの分野でIT業界は最も先進的な業界だからである。