5月下旬、NECで社員向け講演をした。4月中旬にあったキックオフで20分足らずのスピーチをしたのだが、それを聴いていた人から講演を依頼されたのだ。キックオフでのプレゼンはどれも似通っていて面白くない。ちょっと違う観点で話をしようと「三つの提案」という社員に呼びかけるような内容にした。それが新鮮だったようだ。講演は2時間なので「2010年代の企業ネットワークと皆さんへの三つの提案」というテーマにした。200人ほどの人が聞いてくれたのだが、会場が狭く立ち見(立ち聞き)の人が多かったのが気の毒だった。

 三つの提案とは「自分の定義を変えて可能性を広げましょう」「プロジェクト成功の秘訣を覚えておきましょう」「仕事は作るもの。楽しく、新しいことをやりましょう」というものだ。皆さん、何度も笑って面白そうに聴いてくれたので、とても話しやすかった。

 さて、今回はiPhone、iPadを題材にスマートデバイスを企業でどう活用するかを考えたい。結論から言えば、「スマートデバイスはユーザーが購入する、あるいは自分で作るアプリケーションによって内線電話機にもなれば、業務用オンライン端末にも、ドキュメントビューアーにもなる。利用目的を明確にして使うと確実にメリットが得られる」となる。

スマートデバイスの革新性

 2008年7月に日本に上陸したiPhoneは2年足らずで300万台を突破し、従来のスマートフォンの概念を一新した。2005年に登場し、スマートフォンとして初めて注目されたウィルコムのW-ZERO3がそうだったように、以前のスマートフォンはちょっと大きめのディスプレイとキーボードを持つことでパソコンに近づこうという意図があった。しかし、iPhoneは違う。パソコン的汎用性など目指すつもりはなく、徹底して「ビュー」にこだわった。キーボードはなく全面タッチパネル式の高精細なディスプレイ、マルチタッチによる革新的で軽快なユーザーインタフェース(UI)がかつてないエクスペリエンスをもたらし、ユーザーの広い支持を獲得した。

 さらにiPhoneが画期的だったのは、スマートフォンをオープンなアプリケーションプラットフォーム(以下、APP)にしたことだ。世界中のソフトベンダーがiPhone向けアプリを開発し、ユーザーはエンターテイメントやビジネスなど、好みのアプリを使うことができる。自分でアプリを開発するのも簡単だ。

 2009年からはiPhoneを追撃すべく、Androidケータイなど携帯各社がスマートフォンに注力し始めた。2010年4月にはNTTドコモがXperiaを発売し、同時にアプリケーションマーケットも開設した。

 そして、2010年5月28日、日本でiPadの出荷が始まった。電話機能のないiPadをスマートフォンと呼ぶことはできないので、iPhoneやAndroid端末と合わせて“スマートデバイス”と呼ぶことにした。

スマートデバイスの機能と用途

 スマートデバイスの機能と用途、得られる効果をマップにすると表1のようになる。スマートデバイスにはビューアー、APP、コミュニケーターという大きく三つの機能がある。

表1●スマートデバイス適用マップ
機能用途効果
ビューアー・電子書籍、電子新聞
・ドキュメント
・映像、音楽
・コスト削減効果
・業務効率向上
・ペーパーレス
アプリケーション
プラットフォーム(APP)
・業務用オンライン端末
・オフィススイート
・ゲーム
・業務効率向上
・リフレッシュ
コミュニケーター・内線電話
・テレビ会議
・メール
・業務効率向上
・コスト削減

 現時点で多いのはスマートデバイスの最大の特徴である優れたビューアーを生かした使い方だ。大学で学生のiPhoneに教材を配信したり、企業が映像を含むドキュメントを顧客向けのプロモーションに利用したりしている。iPhoneの小さな画面で大学のテキストや企業のマニュアルを読むのが効率的とは言えないが、iPadなら紙のドキュメント以上に使いやすくなりペーパーレス化のための利用が進むだろう。電子書籍リーダーとして同様のデバイスが次々と発表されており、企業にとっての選択肢は広がっている。

 APPでビジネス用途に提供されているアプリは「ちょっとした小道具」といったレベルで、感心するようなものはなかなか見当たらない。これは効果がありそうだと思ったのは、AIGエジソン生命保険の事例だ。独自開発したアプリで営業担当者がiPhoneを使って顧客の契約内容を照会できるようにしている。スマートデバイスが業務用オンライン端末になっているのだ。メールも音声認識で認証に必要なキータッチの回数を減らすなど工夫を凝らしている。重いノートパソコンを持ち歩かなくても外出中のちょっとした時間を生かして仕事ができる。地味ではあるが、効果の分かりやすい使い方だ。

 コミュニケーターとしての利用はまだ進んでいないが、コスト削減や業務効率の向上を図るうえで最も有望な分野だ。