ITpro読者の皆様、編集委員をしております谷島(やじま)と申します。本日の『記者の眼』は、日経コンピュータ記者の山端(やまばた)が書くことになっておりましたが、諸事情により書けません。その代わりと言っては何ですが、谷島が執筆します。

 本日7月22日付で公開する記者の眼は、もともと谷島が書く予定でしたが、若手記者に登場する機会を与えるべきだと考え、執筆枠を山端に譲りました。その経緯については、山端が書いた『前編集長とのやり取りを全文公開します』という6月25日付の記者の眼を参照下さい。

 その一文にある通り、山端はITアーキテクトに関する記事を準備中です。掲載号は日経コンピュータ8月18日号に決まりました。このため、山端は7月末までに記事を書き上げなければならなくなり、ITproの記者の眼まで手が回らなくなった、という次第です。

 ITアーキテクトに関する記事の担当デスク(記者が書いた原稿を直す係)は谷島でして、山端とはメールを介してほぼ毎日、アーキテクトについて議論しています。やり取りを繰り返すうちに、「一番大事なことはデザイン能力だ」という結論に至りつつあり、今回はデザイン能力について書くことにします。

 「ですます」調で書くのは気持ちが悪いので、以下はいつものような「である」調にする。

正しい設計図を描いているか

 最初に議論したのは、「ITアーキテクト」という名称の定義である。システム基盤を設計するスペシャリストを指すのか、いわゆるエンタープライズアーキテクチャの取りまとめを担当する人なのか、あるいはビジネスアプリケーションとシステム基盤の両方をまとめて設計できる人を意味するのか、と尋ねたところ、山端は「ビジネスのシステム全体を考える人です」と答えた。

 「ビジネスのシステム全体を考える」と言った場合、何をすればよいのか。「人物像」の前に「役割」を定義しようと議論を続けた結果、「システム全体の正しい姿とその構造を描く」とすることにした。

 これは7月中旬における一応の結論であり、日経コンピュータの記事をまとめ上げる際には変えるかもしれないが、本日の記者の眼はこの定義で話を進めていく。「システム全体」とあるように、個々のシステムだけではなく、企業が使うすべてのシステムを対象としている。

 「姿と構造」には、業務の流れ、各業務で必要となるデータ、そのデータを提供するアプリケーション群、アプリケーションが動くシステム基盤、を含む。ITアーキテクトは、これら諸要素の関係を整理し、アーキテクチャを定義する。つまりアーキテクチャとは、全体の姿と構造を記した設計図である。

 「正しい」という言葉が分かりにくいかもしれないが、これには二つの意味がある。一つは、きちんと動くシステム群がそろうという意味である。設計図に載っている諸要素について、より詳細に設計していき、最終的に実際のシステム群を用意したとき、全体が連携して動くようになっていなければならない。

 「きちんと動くシステム群がそろう」あるいは「実際のシステム群を用意した」と書いた通り、そろえばよいのであって、すべてを一から作る必要はない。多くの企業が、ビジネスに貢献しているかどうかはともかく、一通りのシステム群とデータ群を保有しているから、アーキテクチャを描く際には、既存の資産を再利用する移行について考慮しておかないといけない。

 「正しい」のもう一つの意味は、動き出したシステム群が、企業や組織の戦略や目的を推進ないし達成するものになっていることである。顧客あるいは利用者の要求通りのシステムを順次作っていき、トラブル無しに動かしたとしても、ビジネスに貢献できなかったら、正しいアーキテクチャであったとは言い難い。

 アーキテクチャ、つまり設計図を一人のアーキテクトが取りまとめるのか、チームで描くのかはさておき、こうした役割は必要である。企業が抱えるシステム群の関係は複雑になっているから、全体が「正しい」構造になっているかどうか、検証しなければならない。

 また、クラウドでもアウトソーシングでもSaaSでもASPでも呼び名は何でもよいが、アプリケーションあるいはシステム基盤を外部の企業に委ねる場合、全体の設計図がやはり求められる。全体を見渡した上で「ここは外部に切り出してかまわない」と判断すべきで、そうしないとシステム全体を連携できなくなる危険が生じる。