NTTドコモは先週、スマートフォンからiモードメールなどが使えるようにする「spモード」を発表した(関連記事)。このところ注目を集めるスマートフォンへの呼び水となるサービスだが、iモード・メールを利用できるソフトとしては「IMoNI」が広く使われている。実は、NTTドコモもスマートフォン向けの純正アプリを提供しているが、IMoNIほど使われていない。IMoNIは、日本Androidの会でも活躍しているegg氏が、勤務する企業の業務とは別に個人として開発した。

 個人の開発者の作品が、“本家”に先行した別の事例がある。ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのスマートフォン「Xperia」では、6月に実施したソフトウエアバージョンアップで「フリック入力」に対応した。この分野では、Android端末向け日本語入力ソフトウエア「Simeji」が既に広く使われている。開発者は、adamrocker氏と矢野りん氏である(関連記事)。

大企業にはないスピードに期待感

 いずれのソフトも、大企業にはないスピード感で市場投入された。投入タイミングだけでなく、市場投入後の機能アップも頻繁に繰り返している。私自身、両ソフトは頻繁に使っているが、その開発力には頭が下がる思いである。大企業としても、彼ら個人開発者の機動力や瞬発力に注目し、協業しようという動きがこのところ顕著になっているように感じている。

 NTTドコモは最近になって「iモード課金を個人アプリ開発者にも開放する」(山田隆持社長)という方針を打ち出した(関連記事)。これまでは法人限定だったサービス料金の回収代行を個人の開発者にも広げた点が画期的だ。

 iモードにはもともと「勝手サイト」という発想があって、NTTドコモが公認した「公式サイト」外での活動を認め、公式サイトと勝手サイトの両輪で発展してきた経緯がある。今回の方針発表は、米アップルの「iPhone」「iPad」などの台頭に応じるかたちで、個人の力をもう一度「戦力化しよう」という動きと言えるだろう。

 先日は、Android端末向けアプリの開発者を対象とした、シャープのイベントに参加した。同社のスマートフォン開発者が、製品の特徴を紹介すると共にアプリ開発者と直接対話しようというイベントで、同社の責任者によれば「商品に対する、外部の開発者からのフィードバックを期待している。彼らには、我々が思いもよらない発想があるからだ」という。単に端末上で動くアプリケーションを開発してもらうというだけでなく、製品開発に踏み込んだ指摘も期待しているようだ。

勇気ある決断に注目

 これら一連の動きからは「不特定多数の開発者を積極的に呼び込み、彼らの意見を仰ごう」という意図が感じられ、従来の単なるAPI公開とも業務委託や発注とも異なる新しい動きだととらえている。いずれも勇気ある大きな決断ということで注目したい。なぜなら、不特定多数の開発者を懐に入れることは、製品開発の現場が丸裸にされるようなものだからだ。実際にシャープのイベントでは、商品の開発方針や経緯に切り込む質問があった。

 私の身近なところで例えて言うなら、編集会議にブロガーなどの書き手を招き入れ、誌面について意見交換するようなものである。「読者の視点とはズレている」とか「事実検証が甘くないか?」、「表現が稚拙」などのツッコミが容易に予想でき、正直冷や汗が出る。

 しかし、外部の開発者との濃密な交流を選んだメーカーや事業者には、個人開発者を遠ざけるマイナス面よりも彼らの視点や知見を得るというプラス面を重視したのだろう。1社ですべての機能を開発する「垂直統合」とも、得意な分野をそれぞれ持ち寄る「水平分業」とも違う、「ソーシャル型」開発とでも言える動きだ。

 Twitterやブログなどソーシャルメディアの台頭で、社内外の垣根は確実に低くなっている。そんな環境で、製品開発はこれからどうなるのだろうかと想いを巡らせる毎日である。