今週月曜日の7月12日、米MicrosoftがWindows Azureのアプライアンス「Windows Azure Platform appliance」(以下Azureアプライアンス)を発表した。このAzureアプライアンスは、マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」を実現するソフトウエアを、特定のハードウエア構成と組み合わせたアプライアンスの形で外販するもの。Azureアプライアンスを導入することで、これまではマイクロソフトのデータセンター内に設置したパブリッククラウドを使う形でしか利用できなかったWindows Azure環境を、それ以外のデータセンターで実現できるようになる。

 例えば、サービスプロバイダーが独自のAzureクラウドサービスを顧客に提供できるようになったり、場合によってはユーザー自身が自社のデータセンターに設置して、いわゆる「プライベートクラウド」を実現することが可能となる。Azureアプライアンスの登場により、日本のユーザーにとっては、これまで不満に思っていたいくつかの部分が大きく解決しそうだ。

国内Azureデータセンターがようやく登場

 まず、Azureアプライアンスの登場で、日本国内に設置したデータセンター上でWindows Azureの利用が可能となる。マイクロソフトがWindows Azureのために設置しているデータセンターは北米、ヨーロッパ、アジアにそれぞれ2カ所ずつの計6カ所。アジアのデータセンター2カ所は香港とシンガポールで、残念ながら日本にはWindows Azureを利用できるデータセンターがなかった。このため、Windows Azureを利用する場合に、必ず日本以外にデータを置く必要があったのだ。

 このことが、Windows Azureを利用する上での障害となっていた。クラウドサービスは、本来その物理的な位置を気にせずに利用できるのが特徴である。だが、大事なデータを国外に置くという状況は、地政学的リスクや法規制などで無理と判断するユーザーが多かった。とはいえ、香港やシンガポールに設置しているデータセンターにまだまだ余裕がある現状で、日本国内へのデータセンター設置を期待するのはなかなか難しい状況だった。

 Azureアプライアンスの登場で、この状況は大きく変わる。Azureアプライアンスにいち早く賛同を表明した富士通は、群馬県の館林市にある館林システムセンターでAzureアプライアンスを利用した「FJ-Azure(仮称)」というクラウドサービスを提供する予定である。2011年初旬というサービスの提供開始予定しかまだ明らかになっていないものの、このFJ-Azureが始まれば、ようやく国内のデータセンターを使ってWindows Azureを利用できるようになる。Windows Azureがようやく国の壁を越えて、日本国内にも参入することになる。

社内サーバーがメンテナンスフリーに

 Azureアプライアンスによって越える壁は国境だけではない。企業とベンダーの間の壁も新たな形が登場しそうだ。

 Azureアプライアンスを使うのは、顧客にサービスとして提供するサービスプロバイダーだけではない。ユーザー企業が自社のデータセンターに導入して、自社内のいわゆる「プライベートクラウド」としても利用できるようになる。富士通も、自社ブランドのAzureアプライアンスの販売を計画している。

 もちろんAzureアプライアンスは、アプライアンス製品としてイメージするような小型のボックス型ではない。数百台以上の数のサーバーを組み合わせて、さらにネットワークや電源、冷却装置などを組み合わせた形の製品となる。このため、「サーバーの数として3けた後半から4けたの台数で構築する規模感」(マイクロソフト 業務執行役員エンタープライズパートナー営業統括本部統括本部長の五十嵐光喜氏)というように、導入するユーザーは大企業が対象である。

 だが、マイクロソフトはこれまで、社内にサーバーを置くオンプレミス型の用途では既存のWindows Serverを使えばよいというスタンスだったはず。確かに、Windows Serverのままで、重要なデータを社外に出さずに運用でき、必要に応じてクラウドサービスのWindows Azureとシームレスに連携できるはずである。だが、現実には「自社でプライベートクラウドを構築したいというニーズはすでに聞こえているし、これからもっと増えてくると思っている」(五十嵐氏)という。

 その理由は、主に運用の負荷にあるようだ。五十嵐氏は、「サーバーの運用に辟易したという声が出ていた」と語る。確かに、何百台や何千台ものサーバーを運用していると考えると、新機能を追加するような場合はもちろん、セキュリティ修正プログラムのような小さなものを適用するに当たってもチェックや実際の運用の手間は膨大なものとなる。

 だが、Azureアプライアンスでは、ユーザー企業はこうした細かい部分を気にする必要がない。Azureアプライアンスのうちハードウエアに関してはアプライアンスを販売したベンダーがメンテナンスをし、その上のAzure platformのソフトウエアに関してはマイクロソフトが適時アップグレードなどの面倒を見る形になるという。これまでのように、ユーザー企業自身でいちいちバージョンアップやセキュリティパッチの適用などの面倒をみる必要がいっさいなくなるのだ。

 つまり、Azureアプライアンスを導入すると、物理的には社内に設置していながら、その運用の一部を外部のマイクロソフトやベンダーが担当するという新しい運用形態が登場する。自社と外部のベンダーとの責任分担点となる壁が変わってくるのだ。

 とはいえ、ユーザー企業のデータセンターに設置したAzureアプライアンスを、マイクロソフトがベンダーが実際にどうやってメンテナンスするのかなど、まだ明らかになっていない部分は多い。値段や実際の提供時期もまだ発表されていない。もしかすると、コストをかなり安く抑えられる可能性もあるし、逆に高くなるかもしれない。具体的な提供形態が明らかになるのを、ぜひ注目していきたい。