日経コンピュータの編集長を昨年1年間だけ務めた。昔から終わったことはなるべく振り返らないようにしているが、さすがに昨年については反省すべき点が多々あり、編集長ではなくなって半年経った今でも、管理職やリーダーの心得に関する文章を読んだり講演を聞いたりすると、なんとも言えない心境になる。

 雑誌の編集長というと、企画を考えたり、要人に会ったり、時にはコメントを発したり、なかなか楽しそうな仕事と思う方もおられるかもしれない。その実態は編集部という組織の長であり、副編集長や記者の人事評価をする、れっきとした管理職である。20数年間ひたすら現場で原稿を書いてきた筆者にとって、部下を抱える管理職の仕事は初めてであった。

 ありがたいことに「部下を持ったらこうしなさい」と助言をしてくれる方が何人かおられた。忠告は素直に聞き、実行したつもりだが、どこまでやれたかというと心許ない。自分でも「こうしよう」と決めたことがいくつかあったが、振り返ってみると丸1年間やり通せたと思えるのは「怒らない」と「飲み食いしない」の二つくらいである。

「どんなことがあっても怒ってはいけません」

 何度か書いたことがあるが筆者は気が短い。怒ると顔色が変わるので、見る人が見れば分かる。ただ、怒鳴りはしないから、周囲が気付かないこともある。

 短気な上司を歓迎する人はいない。そこで、どんなことが起きても、顔色を変えるくらいにとどめ、その場で何も言わないように努力した。

 ところが、ある会議に出ていた時、つい立腹してしまい、居直る発言をしてしまった。これはいけないと反省し、しばし考えた末、編集部の女性におまじないをかけてくれるように頼んだ。

 次回からその会議に出る直前、彼女のところに言って「お願いします」と頭を下げる。すると彼女が「谷島さん、どんなことがあっても怒ってはいけませんよ」と優しい言葉をかけてくれる。冗談ではなく、非常に効果があった。

 一方、「飲み食いしない」とは編集部員と食事をしたり、飲みに行ったりしないという意味である。管理職は部員の様子を見ていて、時にはご飯を一緒に食べながら、相談に乗ったりすべきなのであろう。

 昨年は部下が20人近くいたから、一人ひとりと飲み食いしていると毎日どこかに行く計算になる。これは難しい。ある部員と行って、他の部員と行かない、というのはもっとよくない。そもそも原則として禁酒中なので夜出歩く気にならないし、昼食も原則としてとらない。それならば、ということで飲み食いは一切しなかった。

 ここまで書いて気付いたが、「怒らない」にしても「飲み食いしない」にしても、何かをしなかっただけで自慢にもならない。多少前向きな取り組みとして、「部員一人ひとりと雑談する」ということを心がけたが、こちらはなかなか難しかった。

技術だけではなくマネジメント力が必要

 「情報システム部門のリーダー研修」に関するかなり長い記事を前編と後編に分け、6月23日号と7月21日号の日経コンピュータに掲載した。この3月末まで、大鵬薬品工業で情報システム部長を務めていた方に、“卒論”として寄稿してもらったものだ。

 編集長から編集委員に戻った筆者が、この記事の編集作業を担当した。編集委員とは良く言えばベテラン記者、悪く言えば年老いた記者を指す。

 寄稿をして下さった方は、情報システム部員は技術力に加えてマネジメント力と創造力を身に付ける必要がある、と考え、当時の部下から8人を選び、1年間にわたるリーダー研修を実施した。寄稿には、リーダー研修を思い立った理由、プログラムの詳細と実施過程、研修の成果がまとめられているので、ぜひご一読いただきたい。

 ユニークなのは、大鵬薬品の情報システム部がトレーニングを手掛ける会社と組み、研修プログラムを自分で設計した点である。1年間の研修テーマは、「問題発見力強化」「課題解決力強化」「リーダーシップ」「実行シナリオ作成」「ファシリテーション」「コーチング」「職務記述書作成」「ピープルマネジメント」「キャリア開発の視点」「経営戦略の視点」「交渉術」であった。

 どれも言葉としては知っているし、そのテーマを取材して記事を書いたこともある。だが、自分が管理職になるために、きちんと学んだのかと自問自答すると、どのテーマについても何一つしていない。

 今さらながらその事実に気づき、暗然とした。「原稿さえ書ければそれでいいと思っていたのは大きな誤り。こうしたテーマの勉強をしておくべきだった」と悔やんだがもう遅い。