iPadを使い始めて、約1カ月たった。このところ、仕事以外でWindowsマシンを使う場面はめっきり減った。ネットブックもほこりをかぶっている。ラジオやビデオの視聴、新聞や天気予報、地図の閲覧、それに電子メールなど、パーソナルユースで使う端末は、たいていiPadである。

一家だんらんのスタイルが変わった

 変わったのは自分だけではない。一家だんらんのスタイルも変わった。

 例えば旅行の計画を練る場合、以前だと、おのおのノートPCを持ち寄って、まるで会社の会議のような格好で話し合っていた。これに対し現在は、1台のiPadがテーブルの真ん中に置いてあるだけ。みんなが同じGoogle Mapを見て、縦にしたり横にしたり、拡大したり縮小したり。ここからあそこへはこうやって歩いていけるとか、音声認識を使って「ちょっとだまってちょうだい」と言いながら検索したりする。

 ディスプレイが、IPS液晶パネルだからどの方向からも見えるし、タッチパネルだからみんなで操作できる。

 一方、内蔵マイクはノイズフィルタがちゃんとしているらしく、Google Mobile Appの検索で使える不特定話者の音声認識の精度は驚くほど高い。いくつかの単語を区切って言うだけで所望の情報にたどり着ける。テレビを見ながら、思い出せない俳優の名前や事件など、気になる関連情報をさっと検索できるからストレスを溜めずに済む。

仕事でiPadを使わない理由

 だが、仕事ではiPadを使っていない。その理由は主に二つある。

 一つは、自宅や出先から社内ネットワークへリモートアクセスするときに会社支給のUSBキーの装着が必要なこと。これはWindowsマシンでしか使えない。

 もう一つは、Webで公開した記事の表示スタイルを、利用者数の多いInternet Explorerで確認しなければならないこと。iPadのSafariでは、字詰めや図表の配置がInternet Explorerと食い違うことがたびたびある。

 それでも、Safariの日本語画面はとても美しい。iPadで初めてITproや日本経済新聞のホームページを見たとき、「おお、本当はこんなにきれいだったのか」と唸ったほどだ。それくらい、SafariとInternet Explorerでは日本語画面の美しさに差がある。

 ここで思い起こされるのが、かつて写植機市場で圧倒的なシェアと文字品質を誇った写研の姿勢である。1980年代後半、DTP(デスクトップパブリッシング)の波に乗って写植機メーカー各社は、コンピュータ向けに文字フォントの品質を下げて薄利多売を始めた。このありさまを見て、写研の石井裕子社長は「フォントは文化だ」と嘆いたという。

 写植とDTPの世界では、明らかに誌面作りが異なる。DTPではプロポーションをコンピュータソフトが自動的に決める。これに対し、写植時代は制作担当者が歯数(1歯=0.25mm)という単位で字間や行間を調整し、誌面の美しさを保っていた。当然、両者には雲泥の差が出る。図書館などで70年代、80年代、90年代の雑誌を見比べると、それがよく分かる。

 こうした「美しさへのこだわり」という点では、SafariとInternet Explorerも、日本語の文字や画面の美しさに対する取り組み方が明らかに違う。