全国民に識別番号を割り当てることで、行政サービスの品質と効率の向上を目指す「国民ID」制度。7月11日投票の参議院議員選挙の争点に浮上した消費税率引き上げでも、国民ID制度は、その実現のための重要基盤に位置づけられている。低所得者ほど税負担率が高まる“逆進性”を緩和する「給付付き税額控除」を導入するには、所得の正確な把握のために個人識別番号が不可欠だからである。

 6月下旬、この国民ID制度の導入に向けた政府文書が相次いで公表された。まず高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部、本部長:菅直人首相)が6月22日に「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)工程表」を公表。続いて6月29日には、内閣官房国家戦略室を事務局とする社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会(会長:菅直人首相)が「中間取りまとめ」を明らかにした。

国民ID制度の導入に関する新IT戦略の工程表(IT戦略本部 公表資料)
[画像のクリックで拡大表示]

 新IT戦略の工程表によると、国民ID制度に基づく行政サービスの開始目標は2014年度下期。2010年度に検討体制や利用目的などのサービス要件を整理し、2011年度に付番方法や運用管理方法などの実現条件を整理するスケジュールである。

 現時点で制度の姿を予想するのは早すぎる気もするが、番号制度検討会は、(1)利用範囲、(2)制度設計、(3)プライバシー保護---の3点について、選択肢を示しており、その範囲でなら予想が可能な状況である。

 政策決定の方法は、自民党政権時代の審議会方式とは異なるとはいえ、有識者へのヒアリングを交えながら、事務方である官僚が原案をまとめ上げていく手法は変わらない。会合の配布資料や報告書の中で、“より多くの分量を割いた記述”や“より多くの肯定的意見を付けた案”は、推進の優先度が高いと見るのが自然だ。政策や世論を誘導する意図はまったくないが、制度の行方への純粋な関心から、国民ID制度の着地点を見通してみよう。

どんな用途に使えるか

 検討会の中間取りまとめでは、国民IDの利用範囲として、3つの選択肢を提示している。

(A案)ドイツ型:税務分野だけで使用
(B案)米国型:A案に加えて社会保障分野にも利用
(C案)スウェーデン型:B案に加えて、引っ越しに伴う住所変更手続きの一括処理など役所の手続きに幅広く利用

 B案はさらに、所得比例年金制度の導入などの現金給付に利用するB-1案と、年金手帳・医療保険証・介護保険証などを統合するような情報サービスにも利用するB-2案に細分化してある。最も基礎的なA案からC案に向かうにつれ、国民の利便性は向上する半面、情報管理のためのリスクやコストは膨らんでいく。

 B-2案にあるような医療系の情報サービスは、新IT戦略の工程表では2013年度のサービス開始を目標にしている。また、C案にあるような行政サービスの「ワンストップ化」は、同じく新IT戦略の工程表では長期の目標として2014~2020年度の実現を目指している。

 これらから考えると、2014年度のサービス開始時点では、国民IDは税務と社会保障の分野で利用が始まり、その後徐々に役所での各種手続きに活用できるようになっていくことになりそうだ。