iPhone/iPadの登場で、ユーザーインタフェース(UI)のデファクトスタンダード(事実上の業界標準)は、これまでの米マイクロソフト発から米アップル/米グーグル発へと変わり始めた。特にiPad以降は、「もうノートPCは不要」と話す利用者が増えるなど、“キーボードレス+フィンガータッチ”が受け入れられている。新UIの台頭は、企業情報システムの開発要件へも影響する。

 ユーザーインタフェースが、情報システムの重要な要素であることは否定のしようがない。これまでは、メニューの表示方式やファンクションキーへの機能割り当てなどの多くが、マイクロソフトのWindowsや各種アプリケーションの仕様に沿ってきた。アプリケーションベンダーにすれば、「ユーザーが使い慣れたインタフェースに合わせれば、導入時の操作習得などが軽減されるため、新規参入やリプレースが容易になる」からだ。新たなソフトを導入しても、経験則に基づいて操作できることが一般的である。

 そのUIが今、大きく変わろうとしている。グーグルマップといったクラウド型サービスの普及と、iPhone/iPad、あるいはAndroid端末など新端末の台頭がきっかけだ。

操作する姿の“格好良さ”が普及を後押し?

 「グーグルのように」「iPhoneのように」操作できることが、操作性の高さや取っつきやすさの代名詞になってきた。そこには、“格好良さ”といった評価も加えられるだろう。キーボードを使わず、指先でさらさらと操作する姿が、iPhone/iPadの普及を後押ししたとの見方もある。

 iPadより先に登場したWindows7搭載パソコンが、タッチパネルを備え同様の操作環境を実現したにもかかわらず、大きな話題にならなかったのとは対照的だ。アプリケーションの数もさることながら、キーボードとの併用というスタイルも問われているのではないだろうか。

 こうした流れは、企業向けアプリケーションの世界にも伝搬している。筆者が先日に出席した製造業向けアプリケーションの発表会でのことだ。発表者は、新製品の説明中、「iPhoneのように操作できる」「グーグルのような操作感」といった言葉を何度も口にした。

 以前から、海外の複数のITコンサルタントが「CIO(最高情報責任者)は、『グーグルができるのに、なぜ社内システムではできないのか』と突き上げられる」と指摘するのを耳にしていた。先の発表会は、発表者には申し訳ないが、製品内容よりも、UIの変化が確実に進展していることを筆者には強く印象づけた。

 今後は、iPadや各種スマートフォンの企業導入も進む。例えば、中古車売買を手がけるガリバーインターナショナルが出張販売用にiPadを導入するし、大塚製薬は医薬情報担当者(MR)向けに1300台のiPadを7月中に配布する計画だ。業務内容からみれば、従来のノートPCでも実現可能ではある。しかし、移動することを前提にした新端末は、SFA(営業活動支援)用途などの中心に有力候補になるだろう。蛇足ながら両社は、採用理由に「起動時間の早さ」も挙げている。

メニューの増加は後方アプリ充実の証

 タッチパネルを指先で操作するシステムは、何もiPhone/iPadが初めてではない。タブレットPCもあれば、銀行のATM(現金自動預け払い機)や駅の乗車券販売機などの専用端末もタッチパネル式だ。

 タッチパネル型を使うと、メニューや料金の変更に容易に対応できるといったメリットがある。実際、これらの端末で処理できるメニューは確実に増えているし、デジタルサイネージ(電子看板)としての機能も持つようになった。

 これらの専用端末が示しているように、UIの変化は、単に利用者が操作する環境の話だけにとどまらない。端末側で処理できるメニューを実現するために、ネットワークの先にあるサーバー側のアプリケーションにも大きな追加・変更がなされているのだ。タッチパネルの操作環境がなければ、切符の自販機で可能なってきた座席指定のような機能は、一般利用者には開放されなかったのではないだろうか。