最近、大手ITベンダーは情報システムの完全統合を意識し始めたようだ。単なる垂直統合の話ではない。もっと“貪欲”にITのすべてを1社、あるいは少数のベンダーで統合してしまおうという話だ。近ごろは、企業系の情報システムと組み込みソフトをインテグレーションする“統合系”の議論も出てきている。「1社ですべてを提供するの無理」などと謙虚なことを言っていた水平分業の時代が懐かしい・・・。

 いま振り返ると、マイクロソフトとインテルがIT産業での覇権を完全掌握していた“ウインテルの時代”は、本当に遠い昔のように思える。彼らはこう言った。「情報システムはますます複雑になり、1社ですべてを提供することはできない。CPUやOS、アプリケーションなどそれぞれのレイヤーに強みを持つベンダーが最適なプロダクトを提供する水平分業が、正しい選択肢だ」。

 いま、新たな覇権を握りつつあるITベンダーは、明確には発言しないが、態度でこう示す。「情報システムはますます複雑になり、群雄割拠では最適なソリューションを提供することができない。我々のような傑出したITベンダーがすべてを提供することが、正しい選択肢だ」。これは垂直統合的な発想だが、統合の度合いは単なる垂直統合の域を超える。

 IT業界がこうした統合を強く意識した契機は、オラクルによるサン・マイクロシステムズの買収である。データベースやミドルウエアの雄であるオラクルは水平分業の申し子のような存在だったが、ERPなどアプリケーションの分野に事業を拡大していた。でも、まさかハードウエアを飲み込むとは誰も想定できなかった。それがサン買収で、あっさりと垂直統合型のコンピュータメーカーに転身を図った。

 だが、完全統合ということではアップルの方が強烈だ。iPodやiPhone、それにiPadといった端末、そうした端末向けのクラウドサービスは、すべてアップルが提供する。もちろん、アプリケーションやコンテンツは他の企業や個人が提供できるが、インフラや配布ルールはすべてアップルが決める。クラウドである以上、サーバー側のハードウエアやソフトウエアは溶解しサービスに統合されるため、端末を押さえることで、アップル1社ですべてを統合し提供することが可能になったわけだ。

 こうした完全統合志向は、もちろんグーグルやマイクロソフトなどのITベンダー、というか大手クラウドサービス事業者も持ち合わせている。グーグルはマイクロソフトと同様ハードウエアメーカーでないので、戦略がちょっとまどろっこしいが、Androidの普及を狙うのはまさに完全統合志向ゆえである。マイクロソフトの場合、ゲームの世界では一足早くアップルと同様の戦略を実践している。

 さて、日本の大手ITベンダーは、と言えば、クールな端末やサービスを開発できるマーケティング力に欠け、大規模なクラウド基盤を構築するだけの資本力も乏しいから、普通に考えると、完全統合を巡る競争では圧倒的に不利だ。しかし、実は彼らには別のフロンティアが広がりつつある。スマートシティやスマートグリッドといった、電力など他の社会インフラとの統合だ。

 スマートシティやスマートグリッドの話を詳しくは書かないが、要はITを活用してエコで効率的な社会インフラを創ろうという試みだ。日本国内では社会インフラのリフォームだし、海外向けでは巨額な社会インフラの新規ビジネスとなる。中国や中東で大型商談となるのが確実のため、ITベンダーもそれ以外の企業も目の色が変わっている。

 さてIT側から言うと、このスマートシティなど新社会インフラで端末となるのは電力メーターや自動車、各種センサーなどだ。つまり、組み込みソフトの世界。当然、ITを使った新社会インフラでは、企業系の情報システムと組み込みソフトが統合的に設計されなければならない。ただし、企業情報システムと組み込みソフトでは技術も文化も異なるので、両者の融合を進める必要がある。こうした新しいシステムの在り方を“統合系”と呼ぶらしい。

 考えてみれば、PCに代わるスマートフォンなどの新端末も組み込みソフトの塊だ。新社会インフラ関連でも、データセンター側で提供する情報システムはおそらくクラウドサービスとして提供されることになる。何のことはない。米国のITベンダーと日本のITベンダーではビジネスの土俵が違うだけで、アプローチは同じということになる。そうそう、「Smarter Planet」構想を掲げるIBMも、日本のベンダーと同じ土俵でビジネスを立ち上げる。

 ただし、日本のITベンダーは、アップルのようにすべてを自前で提供できない。社会インフラとなると、なおさらのこと。そのため、他のITベンダー、あるいは異業種の企業と連携することになる。当然、国の関与と方向付けも必要になり、とても重たいビジネスになるのは否めない。

 それにしても、米国の巨大企業が1社だけで提供するクラウド/ユビキタスビジネスにしても、国が強く関与する日本の新社会インフラビジネスにしても、昔のITビジネスの軽やかさはそこにはない。完全統合のITインフラビジネスが新たなトレンドとは言え、少々ゲンナリもする。そうしたITインフラビジネスを苗床にする、新しいIT関連ビジネスが生まれてくるのを期待することにしよう。