写真●IIBAのケビン・ブレナン Vice President
写真●IIBAのケビン・ブレナン Vice President
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 最近、BA(ビジネスアナリシスまたはビジネスアナリスト)やBABOKという言葉を目にする機会が多くなった。ビジネスアナリシスとは、ITなどのソリューションを導くための業務分析・要求分析のことで、それを行う人がビジネスアナリスト。ビジネスアナリストとして実施すべきことを体系的にまとめたのがBABOK(Business Analysis Body of Knowledge)だ。BABOKは、ビジネスアナリシスの普及活動を行っているカナダの非営利団体IIBA(International Institute of Business Analysis)が作成・出版している。

 IIBAの日本支部ができた2008年末ごろは「BA」という言葉も「BABOK」という言葉も、日本ではほとんど知られていなかった。しかし、それから1年半が経過した今、これらの言葉は日本でもすっかりポピュラーになった感がある。要求定義などの上流工程のコンサルティングを手がけるあるベテランコンサルタントも、「最近はクライアントから必ずBAやBABOKの話題が出る」と言う。

 今回、BAやBABOKの“総本山”であるIIBAのケビン・ブレナン Vice President(写真)にインタビューする機会があったので、北米における最新状況やIIBAの今後の取り組みについて聞いた。以下はその内容である。

BEST JOBS IN AMERICAで17位にランクイン

IIBAの定義では、BA(以下BAはビジネスアナリストの意味)は職種(Job)ではなく役割(Role)ですが、職種としても定着しつつつあるのでしょうか。

 確かにBAは「役割」だが、その一方で「職種」としてBAを名乗る人もいる。私自身もそうだ。職種としてのBAは、かなりポピュラーになりつつある。その証拠に、CNNMoney.comの調査「BEST JOBS IN AMERICA」では、BAは17位と比較的上位にランクインしている。

BAは、プロジェクトのオーナーであるユーザー企業内にいることが多いのでしょうか。それとも、SIerやコンサルティング会社のような外部ベンダーのBAがプロジェクトに参加することが多いのでしょうか。

 プロジェクトによって、BAがユーザー企業内にいることもあれば、外部ベンダーにいることもある。ユーザー企業と外部ベンダーの両方にBAがいる場合もある。どちらかが多い、というわけではない。

北米の大手SIerは、BAの確保には力を入れていますか。

 そう思う。実際、最も多くのBAを自社に抱えているのは大手SIerだ。同時に複数の開発プロジェクトが進行するので、必然的に多くのBAが必要になるからだ。

BAとして活躍している人の平均年齢はいくつくらいでしょう。

 客観的なデータは持っていないが、BAとして活躍している人の年齢は30歳以上だろう。大学を出てすぐにBAとして活躍できるわけではない。

では、どんな人がBAになっているのでしょう。

 明確なキャリアパスがあるわけではないが、典型的なケースは2つある。1つは、企業の業務部門に属する人が、システム開発プロジェクトでBAの役割を担うことになり、そのままBAになるケース。もう一つは、システム開発プロジェクトチーム内のプロジェクトマネジャーや開発者、品質保証担当者などが、役割を変更してBAになるケースだ。

アジャイル開発にも対応

CBAP(Certified Business Analysis Professional)に加えて、CCBA(Certification of Competency in Business Analysis)という新しい資格試験を始めるそうですね。

 そうだ。現在実施しているCBAPは、シニア・ビジネスアナリスト向けの試験なので、合格できるだけのスキルと経験を持つBAはそんなに多くはない。そこで、CBAPのレベルには達していないがBAとしての知識は持っている人が、自分のポテンシャルを証明できる資格としてCCBAを始めることにした。CBAPは、7500時間(5年間)のBAとしての経験が必要だが、CCBAは2年の経験でいい。今年の後半か来年早々には実施する。

 さらに、BAとしての経験が不要な、エントリーレベルの試験の実施も検討している。BAの教育を受けた学生が受けられる試験にする予定だ。といってもまだBAを教えている大学は多くはないので、BAのカリキュラムを組んでもらうように、カナダや米国の大学に働きかけているところだ。

IIBAの最新のプロジェクトを教えてください。

 現在、アジャイル開発に対応するようにBABOKを拡張するプロジェクトが進行中だ。アジャイル開発でBAが行うべき作業を検討している。プロジェクトの成果は、ドキュメントとして今年中か来年早々にリリースする予定だ。BABOKの次のバージョンにも反映する。

話は変わりますが、ケビンさんはBABOKのことを「ビーエーボック」と呼んでいますね。ビーエーボックと呼ぶ方が普通なのでしょうか。

 そんなことはない。私自身は「ビーエーボック」と呼ぶほうが好きだが、「バボック」と呼ぶ人もいる。どちらでもいい。

日本でも市民権を得られるか

 今回のインタビューで興味深かったのは、北米では、BAが「職種」として定着しつつある、ということだ。IT関連職種に限らない全職種を対象にした「BEST JOBS IN AMERICA」で17位---。これは、BAという職種が十分に市民権を得ている証だろう。

 なんらかの新しい「作業」が広く普及するかどうかは、その「作業」を専門に行う「職種」が定着するかどうかも、重要なポイントとなる。そう言う意味では、日本でビジネスアナリシスやBABOKが普及するかどうかは、案外、BAという職種が市民権を得られるかどうかにかかっているのかもしれない。