パーソナルスタイリスト(個人向けにファッションやショッピングのアドバイスをする人)の友人に誘ってもらって、女性起業家の集まりに時々お邪魔している。スタイリストやカラーアナリスト、エステティシャンやアロマテラピストなど、女性の「美」に関する仕事をしている人が多い。

 彼女たちの会話を聞いていると、しょっちゅう出てくるのが「コラボ」という言葉だ。「今度一緒にコラボでセミナーやりましょ」「コラボでメニュー作らない?」といった具合だ。

 例えばセミナー。彼女たちは主としてブログで自分の仕事内容を発信し、顧客を集めているが、時折会場を借りて、小規模なセミナーを開く。パーソナルスタイリストなら「今年の秋冬の流行と買うべきアイテム」、エステティシャンなら「自分でできるからだケア」などなど。比較的安価に参加できるこうしたセミナーは、彼女たちの「本業」であるスタイリングサービスや、エステなどに参加者を導く効果も持っている。

 こうしたセミナーをコラボで開催することで集客の機会はいっそう高まる。例えばスタイリストと収納アドバイザーが組めば、「今年の秋冬の流行と買うべきアイテムとその収納のコツ」といったセミナーが可能になる。テーマの幅を広げることで、より多くの人の興味を喚起することもできるが、さらに大きな魅力は、コラボのパートナーが参加者を連れてきてくれることだ。ファッションや美容に興味を持ち、かつ、自分とはこれまで接点がなかった顧客候補だからだ。

 パーソナルスタイリストと収納アドバイザーのコラボの例でいえば、収納アドバイザーの話を聞きたいと来場する人は、「収納に興味を持つ人→洋服などの荷物が多い→買い物好きの可能性が高い」という論法で、スタイリストにとっても有望な顧客候補になる。逆もまたしかりだ。自社にとって有望な顧客候補と接点を持ちながら、事業そのものでは直接競合関係にない。こんなコラボパートナーと組むことができれば、ビジネスには大きなプラスになる。だから彼女たちは紹介や様々なイベントを活用してネットワークを積極的に広げる。セミナーの共催だけでなく、「アロマテラピーの顧客にヘアメイクを優待価格で」といったセット商品の提供にもつながっていく。

 彼女たちの多くは個人事業主で、ビジネスの規模が小さいゆえのフットワークの良さともいえるが、コラボへの取り組み姿勢には学ぶ点が多いと感じる。「ターゲットとする顧客像を明確に描く」「そうした顧客を『共有』できるパートナーを探す」「コラボ・パートナーの強みと自社との補完関係を計算する」といった点だ。

異業種7社が「はたらくママ」を狙ってコラボ

 『日経情報ストラテジー』8月号の特集「視界不良時代を『コラボ』で突破」を取材するに当たっては、こうした視点が参考になった。例えば、2010年4月に日清食品やイオンリテールなど異業種7社が立ち上げた「ママサポ・プロジェクト」は、「はたらくママ」という共通のターゲット顧客に共同でマーケティングや販促を行うコラボ企画だ。加盟企業の1社が販売する埼玉・戸田公園のマンションのモデルルームを、コラボ・パートナーの商品でコーディネートし、「はたらくママ」の生活シーンを提案するといった取り組みを始めている。本来、マスマーケットを狙う食品メーカーや流通業が、「ワーキングマザー」という特定セグメントに焦点を当てたからこそ、業種横断でコラボが実現した。

 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する「Tカード」など、共通ポイントカードも、複数企業で顧客を共有するコラボといえる。カメラ・プリント大手のキタムラは、2010年の年賀状プリントサービスの販促企画を行うに当たり、Tカードの顧客情報のなかから「自社の既存顧客ではなく」「年賀状プリントを使う可能性が高い」顧客層を抽出して費用対効果の高い販促を実現した。

 複数の企業がコラボを推進するうえでは、乗り越えるべき課題も多い。不公平にならない成果配分の工夫、個人情報の取り扱い、顧客の「横取り」の予防策などだ。

 ちなみに女性起業家たちにもコラボのNGコードは存在している。「共同セミナーなのに、集客をパートナーに任せて自分はタッチしない」「ブログで自分を紹介して、とパートナーに依頼しながら、自分のブログでは何もしない。もしくはブログの読者がほとんどいない」「パートナーの顧客に無断でアプローチする」。こうしたNG行為に対し、パートナーが直接苦情を言うことはあまりない。その代わり、「もう2度と組まない」。

 ケイレツや企業グループに所属せず、自由にパートナーを選べる彼女たちは、だからこそシビアだ。自分の時間と専門性、そして顧客データベースという限られたリソースをいかに有効活用するか――。柔らかなイメージを持つ「コラボ」は、冷静な損得勘定の積み重ねがあってこそ成立するのだと痛感させられた。