6月15日に始まった「iPhone 4」の予約は初日に60万台を超え、日本でも米国でも過去最高になったという。米AT&Tでは、初日の予約数が前機種iPhone 3GSを10倍上回り、予約の受付を停止した(関連記事)。ソフトバンクモバイルでも、孫正義氏のTwitterによれば「3GS予約実績の10倍の申込に耐える容量でしたがそれ以上の申込でした」。混乱を招いたことを非難する声も上がっているが、結果としてならば「3GSの10倍」というすさまじい勢いでの普及をもたらした。1カ月前のiPad発売のにぎわいと併せて、2年前にiPhone 3Gが発売されるまでは想像もできなかったモバイル環境が整いつつある。

 iPhone/iPadが注目されるのは、単に端末のデザインや機能だけではなく、ユーザーと開発者いずれの目にもアプリケーション稼働のプラットフォームとして魅力的に映っているからだ。これまではどちらかと言えばゲームや音楽、地図情報など個人で楽しむ使い方が多かったが、今はそれだけではない。ここへ来て業務アプリケーションのクライアント端末としての期待がにわかに高まっている(関連記事1関連記事2)。

 この流れは一過性のものとは思われない。マルチタッチに代表される直感的なユーザーインタフェースや、ノートPCに匹敵する機能を持ちながら、はるかに優れた携帯性にいったん慣れてしまったユーザーは、パソコンのインタフェースをもっさりとしたものに感じるに違いない。

 アップルの勢いを示すデータには事欠かない(関連記事1関連記事2関連記事3関連記事4関連記事5関連記事6関連記事7)。業務アプリケーションの端末を含め、これまでパソコンが果たしてきた役割の一部をiPhone/iPadが代替していくことは間違いない。

iPhone/iPad上では使い勝手が悪い一般のWebサイト

 そこで問題となるのが、パソコンのブラウザで利用することを前提に作られたWebサイトだ。WebサイトをiPhone/iPad上のSafariで表示すると、画面の大きさ、一画面当たりの情報量、画面遷移の数など、パソコンのブラウザであればストレスなく使えているものがiPhone/iPad上では、いかにも使い勝手が悪い。また、ここは大いに議論があるところだが、Flashも表示されないため、情報にアクセスできないことも少なくない。パソコン用のWebサイトを運用している企業にとって、これは機会損失につながる。

 機会損失を避けようと思えば、選択肢は二つある。

 一つは、iPhone/iPad用に最適化したブラウザ用の画面を作ることである。例えばiPhoneで「http://www.amazon.co.jp/」にアクセスすると、見慣れたアマゾンの画面ではなく、iPhone用にカスタマイズされたシンプルな画面が表示される。パソコン上のブラウザでも種類やそのバージョンごとに挙動が異なるため、少し凝ったWebサイトであれば、ブラウザごとに表示などを制御するのが一般的だ。それと同様、iPhoneのSafari用にほかのブラウザとは異なる画面を用意しておくわけである。

 もう一つは、iPhone/iPad用のアプリケーションを作成することである。アマゾンはiPhone用のアプリケーションを上記のWeb画面とは別に用意していて、こちらからも同じように買い物ができる。一つめと違うのは、iPhoneのSafariでは見られなかった「おすすめ商品」が表示されたり、「フォト検索」などの機能が使えたりすることである。iPhone上で実際に買い物をするときは、筆者ならこちらを使う。

 iPhoneに比べれば画面が大きいiPadであれば、(Flashなど多少の例外を除き)Webサイトも普通に見られる。だからiPad用にはWebサイトがあればよいという見方はあり得るが、得策ではない。iPad専用に作り込まれたアプリケーションを使った後に、iPad上のSafariでパソコン向けのWebサイトにアクセスすると、ゴチャゴチャした画面や、やぼったい画面遷移に、ユーザビリティの悪さを感じる。

 端末の力を引き出せないWebサイトはユーザーの支持を失うに違いない。Webサイトでサービスを提供している会社が、iPhone用だけでなくわざわざiPad用にも専用のアプリケーションを用意し始めているのはそのためだ。アマゾンも、6月18日時点で日本のApp Storeからは利用できないが、米国のApp Store上ではiPadアプリを公開している。